佰肆 ページ14
＊
この本丸で、比較的多くを見てきた者の中で尚且つ話ができるものは誰か。
その問いに目を瞬かせた小狐丸は「まぁ、私や三日月を始めとする三条の者も比較的古株ですが……」と首を捻りながら付け足した。
「……わざわざ三条まで御足労おかけせずとも、夜までお待ちいただければその者から参るでしょう」
そうして言われるがまま夕餉に稲荷寿司を食べ、寝間を整えたタイミングで部屋の障子が無遠慮に開けられた。
「悪ぃ、思ったより遅くなっちまったな。……明日出直そうか？」
日本号である。手入れが終わったその足でこちらに出向いたのか、手には身の丈ほどありそうな得物──彼の本体が収まっていた。
そこでふと思い当たる。なるほど……小狐丸が言っていたのは、此奴のことだったのか。
「いえ。あなたさえよろしければ、このまま。……夜は逃しましたか、今日は稲荷だったのですが」
「あァ聞いてる、小狐丸の要望だってな。さっき厨に顔出したら少しだけ残ってたから、それだけ摘んできた。──じゃ、ちょっくら失礼するぜ」
「どうぞ。私も、聞きたいことがあったんです」
「それも小狐丸から聞いてる」とどこか分かった様子の日本号は、障子を閉めながら足を崩した。在室を他へ報せるためなのか、長い槍は外部に置き行くようだった。
「お茶もなく、すみません。ですが時間も時間ですので、もうご容赦いただきたく」
「俺は別にいーんだけど。それこそ『隣の奴』にでも頼みゃあいいのに……なんか調子狂うな」
隣の奴……長谷部のことだろうか。確か『昔馴染み』と言っていたはずだ。
どうやら日本号は、私が茶をいれられないがゆえの言い訳と捉えたようだった。しかし私も茶はいれられるし、わざわざ他の者にやらせる理由もない。……が弁明するとなお言い訳みたいに聞こえるのでやめておこう。
加えてこの時間である。今厨に出向けばきっと歌仙や燭台切から根掘り葉掘り聞かれるに違いない。要するに、面倒臭いのだ。
「……そんで、『聞きたいこと』ってのは？」
「あれ、日本号さんの『お話』はよろしいのですか？」
「あー……後でするわ。一応あんたはこの本丸じゃ俺より上ってことになってんだし、あんたを優先するのは礼儀だろ」
座り方や話し方から推測するに、どうやら傍若無人な態度の刀剣らしい。やや刺々しさを感じるのは、今までの環境によるものだろう。
別に私はそれが性分であるなら矯正する気はないが、彼が傷まみれだった理由に酷く納得がいった。
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やよ - 更新待ってます！ (2022年1月8日 15時) (
レス) @page11 id: f3622d769a (このIDを非表示/違反報告)
東雲 - とても面白い作品で読み込んでしまいました！続きを楽しみにしてます！ (2021年6月13日 20時) (レス) id: 3d369926d3 (このIDを非表示/違反報告)
Hikaひかり(プロフ) - 途中で終わりとなっていてすごくショックです…続きが読みたい…！ (2020年12月19日 18時) (レス) id: 6f70194681 (このIDを非表示/違反報告)
黒豆粉 - 更新楽しみに待ってます。応援しています。頑張ってください！(^-^) (2020年9月25日 22時) (レス) id: a216a85358 (このIDを非表示/違反報告)
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