─弍─ブラックお嬢様のブラックな本丸事情【刀剣乱舞】

捌拾参─＿＿＿＿＿─ ページ38

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かつて、聞いたことがある話だ。

『長い間閉じ込められていた場合における逃走意欲の喪失』

それはよくある人間心理を語ったものだった。
聞かせてきたのは、誰だったか。

それさえも覚えがないが、開いた蔵の扉を前に何故かその話が蘇った。

ここに閉じ込められて、数時間、数日、数ヶ月、数年。陽の光も入らないこの場所ではそれも分からないが、俺が今開いた扉を見ても逃げる気にならないということはそこそこ長く閉じ込められていたのだろう。
別段何かを思うわけではない。
ずっとこうだったからな。

長らく開かなかった蔵の扉を容易に開けてみせたのは、まだ齢若げな少女。
そんなものは俺の知り合いには居ないため、審神者だと想像がつく。
見たことない顔だ、また代替わりしたのか。
俺は、それほどまで長く閉じ込められていたということか、はたまた……


「……あなたは。」

ふと相手方から発された声に、考えを止める。
俺の聞き間違いでなければ、今俺の正体が問われた。そこに僅かな疑問。普通審神者というものには研修や見習いを挟んだ上で初めてなれる、と俺を顕現した先代……何代なのかはもう闇の中だろうが、そいつは言っていた。

「俺は、天下五剣が一振、大典太光世だ。

お前は……何代目だ?」

俺が顕現されたのは4代目の時。
蔵に閉じ込められたのは6代目の時。

「私は、10代目です。
初めまして、大典太光世さん。
私は、Aと申します。」

10代目だと……?
そんなに長く閉じ込められていたか。
いや、でも本丸の気は汚れたまま。
ということは寿命まで、ということはなく早々に人が変えられたということか。
俺がここにいた期間が分かることはなさそうだ。

「あぁ。大典太でいい、よろしく頼む。
因みに、ここの蔵の扉はどうやって開いた?」

「え、鍵も何もかかってませんでしたよ。
青江さんからも、そう教えていただいたので来たんです。ここに、皆さんの元の主のことや、刀派、関係がまとめられた資料があると伺ったので。」

刀剣がそれを知っている、ということは政府の奴らが開けに来たか、朽ちて開いたかのどちらかだろう。
恐らくだが、前者だろうな。

「……お前、研修は受けていないのか。」

「なんです?それ。
私は目が覚めたら池の中ですが。」

なるほど。
やっと今まで感じていた、僅かな話のすれ違いの正体がわかった。

「すまないが、今すぐ政府の管狐を呼んでくれ。

……あぁ、こんのすけだ。」

それすらも、教えてられなかったか。

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