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「A、ああ、A…そんなに泣きはらしてしまって、ああ、可哀想に……！」
地に伏せていた少女の顔を無理矢理持ち上げ、そしてひしと抱きしめる。
Aにもはや抵抗する力と気力はなく、されるがままにルイスの胸の中に納まるだけだ。
「よっぽど怖い目に遭ったんだね、ごめんよ、どうかこの私を許しておくれよ。
あの醜女(しこめ)と2人きりにしたまま行った私が馬鹿だった。けど、けどもう、大丈夫だからね。Aのことは一生守ってみせるよ、ずっとずっと、ずっとね」
そう言う声は確かにルイスの声であったが、Aの知っているルイスではなかった。
確かにそうだ。
Aの中のルイスは、こんな汚らしい単語で人を呼んだりしない。
こんな怪物が潜んでいそうな深海の瞳で娘を見ないし、下品に歯を見せて笑うような性質ではない。
こんな、真っ赤な液体で白衣を染めるような人ではなかった。
生乾きの白衣がAの耳に触れ、膠(にかわ)のようにべったりと貼りつく。
体中が拒否反応を示し、再び叫び声を上げながら抱きしめてくるルイスの腕をはらった。
「来ないで！」
そこにいる人物はルイスでもなければ優しい父親でもない、ただの狂人。
Aはもう頭が一杯であった。
一刻も速くここから逃げる、それだけは理解できているのだが、何せ怯えきった体が上手く動かせやしない。
助けを求めようにも、この屋敷には自分と奴しかいない。
そう思っていた。
部屋のどこからか微かに聞こえる、例の金属同士がぶつかり合うような小さな音。
再び耳に届く頃には、Aの目は確かにそれを見ていた。
部屋の奥にある赤い椅子に静かに腰を下ろしている1人の青年。
金よりも亜麻色に近いさらさらとした髪に、すっと筋の通った高い鼻。
一文字に結ばれた利口そうな唇が品の良い色気を放ち、艶を持っている。
座った体勢からも分かる、すらりと長い足に一目は華奢かと思うがしっかりとした体をしており、病的なまでに血の気のない白い肌が恐ろしいほど美しかった。
黒いズボンを履き、上は真新しいシャツを着ているがボタンはまだ閉められておらず、まだあどけない子どものAにはもったいないほど魅惑的であった。
だが何よりもAが目を奪われたのは、彼の窪んだ目元に存在した瞳。
外の世界で見た青空よりも広く寛大な…まだ実際に見たことがない、海のように深く透き通った碧眼であった。
ディアンと瓜二つのそれは。
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白梅 和平(プロフ) - ccさん» コメントありがとうございます！第3章は特に内容が複雑なため書くのに苦労しているのですが、ちゃんと伝わっていると分かり安心しました。久々のコメントで嬉しかったです。更新頑張ります！ (2018年4月8日 14時) (
レス) id: 4fe8a6b6f6 (このIDを非表示/違反報告)
cc(プロフ) - 情景描写が繊細で、独特な世界観にすぐ引き込まれてしまいました。もっと評価されるべき作品だと思います。続き、楽しみにしています！ (2018年4月7日 10時) (レス) id: 3524d9e2e8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：白梅 和平 | 作成日時：2017年7月4日 21時
