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顔に関して顔は人間そっくりで、高い鼻に閉じられた口、窪んだ目元がある。
目玉はまだ造られていないのだろうか、空洞のままでいた。
そんな物が部屋を、覗いていたAを、見下ろすかのように取り巻いている。
今にも動き出しそうな奴らが、どこに目を向けても何体もいるのだ。
それだけでない、本当の地獄はこれからである。
少し視点を下にずらせばそれはあった。
きっと元々は、美しく白い柔らかな肌を持っていたのだろう。
無残に引き千切られた血管がぶらぶらと揺れ、管の中からまだ残っていた鮮血が滴り落ちている。
鮮血の雫が行く先にはおぞましい量の血だまりが出来上がっており、その中心部に赤い物体が横たわっていた。
丁度Aの母親と同じくらいの大きさだ。
物体がもう1人分ほど入るくらいに間隔をあけ、見覚えのあるものがあった。
Aと同じ巻き毛の茶髪を1つにし、首元を赤黒く染めた白いシャツを着ているそれは、顔をこちらに向けていた。
半分開けた口に小さな鼻、だがおかしなことに、この部屋の箱の中にいる奴ら同様目玉がなかった。
まるで目玉を抉り取られたAの弟みたいだ。
激しい、内臓を引っ掴まれて分捕られたような吐き気が込み上げる。
ぼたぼたと零れる涙は悲しいだなんて甘ったれたものじゃない。
見開かれた目はぎょろぎょろと四方八方へ向けられ、必死に2つの物体を見ないよう逃走していた。
腰の力は抜け膝からかくんと崩れ落ち、ひんやりと冷たい石床に尻もちをつく。
「ア、ア、イヤ、嫌、嫌だ、アアアア」
ァァァァァァアアアアアァァァァアアアアァァッッ!!
鼓膜が破れんばかりの叫び声が、部屋だけでなく地下全体に響き渡る。
きっと屋敷の外にも響いただろうが、少女の虚しい声が聞こえたのはただ黙っているしかない老いた木々だけ。
なんとも狭く、卑屈な世界であろうか。
叫び続けてそのまま顔を地面になすりつけ、己の目が見たものを全力で否定しようとする。
それでもあの光景は脳裏に焼き付いて離れなかった。
機械たちのあの照り輝いた鋼鉄が、物体の血管1本1本が、少年のどす黒い空洞が、閉じて何も見えないはずの目に鮮明に映る。
「違う!違う違う違う、違う!」
なすりつけた鼻から、どうしてもあの臭いが入り込んでしまう。
噛みしめた唇も閉じ息をするのも嫌になった、そうその時。
王が、民の娘のもとへ近づいてきていた。
今まで見たこともないような少女の泣き顔に、王は歯を剥き出しにして笑っている。
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白梅 和平(プロフ) - ccさん» コメントありがとうございます!第3章は特に内容が複雑なため書くのに苦労しているのですが、ちゃんと伝わっていると分かり安心しました。久々のコメントで嬉しかったです。更新頑張ります! (2018年4月8日 14時) (レス) id: 4fe8a6b6f6 (このIDを非表示/違反報告)
cc(プロフ) - 情景描写が繊細で、独特な世界観にすぐ引き込まれてしまいました。もっと評価されるべき作品だと思います。続き、楽しみにしています! (2018年4月7日 10時) (レス) id: 3524d9e2e8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白梅 和平 | 作成日時:2017年7月4日 21時