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Aの提案に再び辺りは困惑に陥り、騒然とした空気が流れた。
ナンシーも開いた口が閉まらないでいるし、目以外の神経が敏感となったマルガレーテは何が起きたのかと不安そうに眉を顰める。
唯一落ち着いているのはAとヘンリーら姉弟のみで、Aの隣にいたアイザックも顎が
外れるかと言うくらいに驚きを露わにしていた。
「んなA、そんなこと言ったって」
「アイザックさん、孤児院はどうなりましたか」
「そりゃ殆ど燃えちまってとても使えるもんじゃねえ、それにな、こんな人数のチビ共の面倒は
誰が見るってんだ!」
孤児たちを一瞥する。
加えて、施設の最高責任者でもあるマルガレーテもこの容態である。
とても上手くやっていけそうでもなく、アイザックの意見は最もである。
それでもAは言葉に詰まることもなく、落ち着き払ってアイザックを見上げた。
「アイザックさん、貴方が面倒を見てやって下さい」
「……おん!?」
おい待て何を言い出すんだA、流石にそれはちょっと、ええ、うん…。
息がひゅっと出ては引っ込んでいき、思うような声が一言も出ないアイザック。
遂に自分の耳を疑い始め耳たぶにそっと触れたが、それは自分の聞き間違いではないことがすぐに分かることとなる。
車から、弱々しく灯る蝋燭の火のような人が降りてきた。
正体は見なくても分かる。
一寸の光も捉えられなくなったマルガレーテが、しわくちゃで骨ばった手をナンシーに引いてもらいながら、ゆっくりとアイザックに近づいて来ていた。
その足取りはとてつもなく不安そうにおぼつき、ナンシーが手を離そうものならその場に倒れ込みそうである。
それでも彼女は少し曲がった腰を上げ、導かれるようにやって来た。
やがてアイザックの正面に立ち止まる。
どうしたらいいか分からずにいるアイザックは居心地悪そうに口をきゅっと閉じ、夕方に見たあのもっさりとした牛みたいな彼とは打って変わり、真剣な眼差しを老婆に浴びせる。
それを感じ取ったのだろうか。
マルガレーテは押し寄せる不安を無理に閉じ込め、小刻みに揺れる手をアイザックに差し伸べた。
「…手を」
掠れた声で呟いた。
すぐにアイザックが手を重ねると、マルガレーテはナンシーと繋いでいた手を解き、両手でアイザックの手を包む。
数秒ほど彼の手に触れると、彼女は揺れる瞳を辿るようにして上へ上げた。
見えていない筈の目がしっかりとアイザックを映していたのは、彼女の強い思いが手助けしたらしい。
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白梅 和平(プロフ) - ccさん» コメントありがとうございます!第3章は特に内容が複雑なため書くのに苦労しているのですが、ちゃんと伝わっていると分かり安心しました。久々のコメントで嬉しかったです。更新頑張ります! (2018年4月8日 14時) (レス) id: 4fe8a6b6f6 (このIDを非表示/違反報告)
cc(プロフ) - 情景描写が繊細で、独特な世界観にすぐ引き込まれてしまいました。もっと評価されるべき作品だと思います。続き、楽しみにしています! (2018年4月7日 10時) (レス) id: 3524d9e2e8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白梅 和平 | 作成日時:2017年7月4日 21時