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「――――ん?」
「どうしたの」
「お母さん、今、何か通らなかった?」
「通った…?いいえ、なんにも」
「嘘…僕、確かに何か見たんだけど」



エイ国の街に、黒い疾風が横切る。
それは目にも止まらぬ速さで道行く人々の間を吹き抜けていき、一点の青い光をぎらつかせていた。
歩いている人の顔を1つ1つ睨みつけ、建物の窓の向こうにも全て確認している。
やがて、疾風の前に大きな壁が立ちはだかった。
どうしようもなく立ち止まるかと思いきや、そのまま壁に沿って上へ上へと登りつめて、終いには壁の頂上まで登り切ってしまったではないか。
そして――長くすらっとした足を止めて、その姿を現す。
黒い疾風の正体は、Aの探索に精力を尽くす人型機械、ヘンリーであった。

彼の速さに落ちてくる雨が追いつかなかったのか、それとも走っている間に乾いていくのか。
杖とトランクは持っているが傘をささずにいたヘンリーは、今やっと雨に濡れ始めたが、そんなことはどうでも良い。
Aがいなくなった、それも、自分が目を離している隙に。
自身の失態に自然と歯をギリッと噛みしめながら、見下ろす限り続く街に目を凝らす。
目の裏側にある歯車が高速で回転しながら、光の屈折を細かく繋げてズーム機能を発動した。
数秒に1回のペースで行われている瞬きは停止させ、文字通り全力で街ゆく人々を見た。
その中でも茶髪、白い服、低身長、女の人間に絞って探索していく。


どこだ、どこにいる。
一刻も速く見つけねば、Aを。

意識しない内に脳内で言葉が作られていく。

こんなことになる前に何かできたはずだ。
睡眠薬を混ぜたり、窓に板を釘付けておくなり、Aの手足を縛っておくなり。

言葉だけではない、昔記録されたデータも…。


「H-823、お前の任務だ。



Aを傷つける者は全員殺せ」




「っ………」

バチリと思考回路を断ち切って、誰が見ているわけでもなく眉間に皺を寄せる。
嫌な記録を引き出してしまった。
無駄に鮮明に蘇った、相手の全てを見透かしたかのような低い声。
それが発せられた、赤黒く汚れた白衣を見に纏う体。
自身の足元で冷たい石床に横たわった、原形を留めていない2つの死体。
金属と血の鉄臭さとオイルの臭いが混じったあの部屋に、目を見開いて泣いているA、そして、彼女の父親がいた記録。
ヘンリーが初めて目に入れた光景だった。
Aの弟の目で見て、Aの母親の肌で感じて。

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作品ジャンル:ファンタジー, オリジナル作品
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白梅 和平(プロフ) - ccさん» コメントありがとうございます!第3章は特に内容が複雑なため書くのに苦労しているのですが、ちゃんと伝わっていると分かり安心しました。久々のコメントで嬉しかったです。更新頑張ります! (2018年4月8日 14時) (レス) id: 4fe8a6b6f6 (このIDを非表示/違反報告)
cc(プロフ) - 情景描写が繊細で、独特な世界観にすぐ引き込まれてしまいました。もっと評価されるべき作品だと思います。続き、楽しみにしています! (2018年4月7日 10時) (レス) id: 3524d9e2e8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:白梅 和平 | 作成日時:2017年7月4日 21時

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