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反射的にキキッと足にブレーキをかけてしまう。
だが娘を助けたい一心で、言葉の交わせない機械たちに獣のように吠えた。
「どいて!」
勿論、機械たちがどくことはない。
ピストルも下げることなくこちらに向けたままである。
そうこうしているうちに、後ろから足音が忍び寄ってきた。
もう振り返らずとも誰か分かる。
「ああ、やはりお前か。お前がAを汚したのか」
独り言のようにぶつぶつと躍動のない台詞を聞くなり、ヴィクトリアは反抗の態度を見せた。
「汚した?外に出るのは普通よ、あなたがそう思っているだけだわ」
真っ直ぐ機械たちを睨みつけたまま、後ろに佇んでいるであろうルイスに口答えする。
だが発言してからすぐにしまったと後悔した。
私はAが外にいるとはっきり言ってしまったようなものではないか。
悔しさに拳をぎゅっと握る。
ルイスは再びヴィクトリアの真後ろに立ち止まり、しばらく何も言わずただ突っ立っている。
小さく開かれた口から洩れる息がヴィクトリアの首元にかかり、ぞわっと飛び跳ねれば、彼女はまた勇気を振り絞った。
「あの子はすべてを知るべきよ。狭いあの部屋に閉じ込めて、そこで一生を終える気?」
返事がないことをいいことに、続けて意見を述べる。
「あなたも私も、いつかは死んでしまう。誰があの子を守るっていうのよ…?」
正しい意見だ。
ヴィクトリアも自分が正しいと信じて疑わない。
けれど、その心もぐらりと揺れ動いた。
ルイスのあの薄気味悪い笑い声によって。
「っはははは!お前は本当にあの子の母か!?」
また、下らない言葉であった。
「愛する娘のためなら造ればいいだろう!?あの子を一生守ってやれる、ついでに楽しませてくれる輩を造ればいいじゃないか!」
彼もまた、自分が正しいと信じて疑わなかった。
自分の子どもを守りたいと思うのは親として当然であり、義務だと考えている。
ただその方法が常人離れしていた…たったそれだけ、それだけの話であった。
ヴィクトリアの瞳も絶望に染まるその時、突如として彼女の首に痛みが走る。
果物ナイフで切られたそれとは違う、ずっと襲いかかるもの。
ルイスの冷たい両手が彼女の首を掴んでいた。
「っに………て…がっあっ…」
息が苦しい。
意識がぼやけて、視界が暗くなっていく。
体はいうことをきかず、唯一使える耳も奴の笑い声がこびりついていた。
正しい人は既にいなくなっていた。
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白梅 和平(プロフ) - ccさん» コメントありがとうございます!第3章は特に内容が複雑なため書くのに苦労しているのですが、ちゃんと伝わっていると分かり安心しました。久々のコメントで嬉しかったです。更新頑張ります! (2018年4月8日 14時) (レス) id: 4fe8a6b6f6 (このIDを非表示/違反報告)
cc(プロフ) - 情景描写が繊細で、独特な世界観にすぐ引き込まれてしまいました。もっと評価されるべき作品だと思います。続き、楽しみにしています! (2018年4月7日 10時) (レス) id: 3524d9e2e8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白梅 和平 | 作成日時:2017年7月4日 21時