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リデル家の屋敷はその大きさの割に合わず、主人ルイスとその妻、そして双子の子どもの計4人しか住んでいない。
住み込みの使用人どころか、手伝いの者やペット1匹さえもいないのである。
ではこの大きな屋敷を管理するには骨が折れるのではないか、そんな疑問もあるだろう。
しかしそんな心配はいらない。
少しオイルの染みが付着している白衣を翻(ひるがえ)しながら、屋敷の主ルイスは颯爽と廊下を歩いていた。
目的は、そう、愛しい娘のささやかな願いを叶えるためである。
その足取りは自然と軽くなり、表情もまた彼自身気づかぬうちに崩れていた。
そんな彼の足元を、微かにギシギシと軋音(きしみ)を立てながら通り過ぎて行く物が。
廊下の壁に取り付けられた明かりに照らされ、その表面を鈍色に光らせる。
音の発生源はここからであろう、三角形のタイヤを使って進んでおり、上に乗っている本体は車のような形をしていた。
車のライトにあたる部分には、何やら白く光る丸い物体が2つ備わっていて、上下左右に人間の目玉のように動いている。
これらこそ、リデル家が4人で暮らせていける最大の要因だ。
今述べた機械は警備の役割を果たしていて、この屋敷全体を休むことなく巡回している。
同じ物は他10体ほど稼働しているが、別の物として掃除や扉の開閉をこなす機械も屋敷のそこかしこで働いている。
すべてルイスが発案し作成した物だ。
後にこれをモデルとした機械警備隊がエイ政府機械研究所西部で開発され、Aたちを襲うことになるとは、さすがのルイスも思いもしなかっただろうが。
さて、ルイスはAの部屋から少し離れた別の部屋に着いた。
扉を雑に数回ばかり叩くと、中からまだ女の子のような高い声が返ってくる。
「はい、ただいま」
すると間もなく扉がゆっくりと開き、Aに顔がそっくりの少年が現れた。
Aと同じ巻き毛の茶髪を1つにし、とろんと垂れた藍色の瞳はヘンリー…いや、ルイスと同じだ。
少年は父親の姿を確認するなり人懐っこそうに笑顔を向けるが、一方のルイスは違う。
Aと接していたときのあのふんわりとした雰囲気とは打って変わって、冷酷という言葉がよく似合う、そんな雰囲気だ。
優しい微笑を浮かべていた口は何も感じていないように一直線に結ばれる。
愛に満ちていた瞳は氷のような冷たさを放ち、剣で突き刺すようにじっと少年を見下ろしている。
あたかも汚らわしいものを見てしまい軽蔑するような眼差しであった。
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白梅 和平(プロフ) - ccさん» コメントありがとうございます!第3章は特に内容が複雑なため書くのに苦労しているのですが、ちゃんと伝わっていると分かり安心しました。久々のコメントで嬉しかったです。更新頑張ります! (2018年4月8日 14時) (レス) id: 4fe8a6b6f6 (このIDを非表示/違反報告)
cc(プロフ) - 情景描写が繊細で、独特な世界観にすぐ引き込まれてしまいました。もっと評価されるべき作品だと思います。続き、楽しみにしています! (2018年4月7日 10時) (レス) id: 3524d9e2e8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白梅 和平 | 作成日時:2017年7月4日 21時