244. [番外編] ページ44
「裏稼業を、甘く見ない方がいいですよ。
財産が無くなったと分かれば、これまであなた方のお金でいい思いをしていた組織は手のひらを返してくるに決まっています。
組織に不利益をもたらしたと逆恨みして、散々な目に遭わされる可能性も高いでしょう」
哀れむような声でバーボンが呟く。
私は下を向いて、拳を握りしめた。
私の考えは甘かったのだ。
力のない私がどれだけ足掻いても、もう、普通の生活には戻れないのだろう。
こぼれそうになる涙を、必死で堪えた。
そんな私を見ていたのだろうか。
しばらくは沈黙を守っていたジンが、ひとつ舌打ちをして口を開いた。
「チッ…めんどくせぇが、てめぇらの金と資産に免じて今回は手を貸してやってもいい」
そして、バーボンにいくつか調べ物をするように指示を出すと、自分でも何やら調べ始めたらしい。
車内にはしばらく、パソコンのキーボードが打たれる音ばかりが響いていた。
そして。
「ジン、終わりました。
彼女たち一家の資産額は、最低でも三百億は下らないと思います」
「となると、八百億か」
「ええ、当初の予定だった百億と比べても八倍以上の利益が上がります。これなら、ボスも動かせるでしょう」
バーボンの言葉に頷いたジンは、携帯を取り出すと車の外へ出た。
何やら、電話をかけているらしい。
「あなたは、随分とジンに気に入られたようですね。お金のためとはいえ、まさか彼がここまでするとは思ってもいませんでした」
車にもたれて話をするジンの背中を見ながら、バーボンがそう言って微笑んだ。
「違うわ。
私を気に入ってくれたのはジンじゃなくて、Aよ。ジンはきっと、Aのために動いているだけ」
私が落ちぶれて死んだとなれば少なからずAが傷つくから、悲しむから、ジンはそれを防ごうとしているのだと思う。
だから決して、私があの人に気に入られているわけじゃないのだ。
そう説明する私に、バーボンは少し首を傾げた。
「ジンは、Aをどう思っているのでしょうね」
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作者名：櫂渦【とーか】
| 作者ホームページ：https://www.pixiv.net/users/28997649
作成日時：2021年2月19日 9時
