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__あれから1週間後。
ざあざあと雨が激しい日だった。
雨の日の渋谷駅は静かで、人もまばらにしかいなかった。そういえば朝、今日は記録的な豪雨です、なんて天気予報士が言ってたな。
もし俺がこの日、コンビニへ行こうとしなかったら?
もし俺がこの日、キイチの運転を断っていなかったら?
「…。」
きっとこの日、雨の中で傘もささずにうずくまってるバカを見つけることもなかっただろう。
もうずっと会えないと思っていた、いとしい人。
「…おーいー、雨の日に傘ささねぇとか子供かよ。」
そう言ってAの傍にしゃがみこんで、傘を傾けた。
ゆっくりと顔を上げた彼女の顔は、涙か雨か分からんほどびしょびしょで、左頬に大きなアザができていた。
『…知義ぃ、』
「…どうしたん。」
『どうしよう、逃げてきちゃった。あの人、毎日あたしのこと殴るの。それで、耐えられなくて、あたし、あたし…』
「もう、いいよ。よく頑張ったな。」
見てて苦しくなるほど細くなった体をそっと抱きしめた。背中をそっとさすると、すぐに嗚咽が聞こえてきた。
『これからどうしたらいいのか分かんないの、また戻るのが、怖い…。』
「…Aさあ、俺との約束忘れたの?」
怪訝そうな顔をして俺を見上げるAの頭を撫でてやる。
「…大人になっても、お互いのこと忘れてなかったら、結婚しよう、って。」
『…あ、キーホルダーの…』
まだ状況が掴めてない、というようなAの頭からそのまま右頬に手を添える。
「…ずっと、覚えてた。ずっと好きだった。
借金のことは俺がなんとかするし、その結婚相手とも話つけてやる。だから、」
A、俺と結婚してくれ。
『…っ…うん…!』
そう返事した瞬間、Aはまた声をあげて泣き始めた。
「もー、泣くなよ、めんど、」
いひひ、と俺の真似して泣き笑いするAがたまらなく可愛かった。
「一緒に帰ろ。…同じ家に。うるさいヤツいっぱいいるけど。」
そう言ってAの手を引いて立ち上がると、Aが小さく、かんたさん、と呟いた。
「そ。あと後輩。…ああ、あと、結婚指輪ウチにあるから。帰ったら嵌めてみ。」
俺の言葉に目を丸くするA。
『…もともと、結婚、するつもりだったの?』
「うん。売らなくて良かった。」
『…ふふ、ありがとね、』
右頬に、柔らかい感触が落ちた。
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杉猫(プロフ) - リク話ありがとうございます!もこ坂可愛い。゚(゚´▽`゚)゚。消しゴムの顔が思い浮かぶくらい可愛いお話ありがとうございました! (2019年6月12日 18時) (レス) id: 04ecf5769a (このIDを非表示/違反報告)
ハクビ(プロフ) - Mai Yさん» リクエストありがとうございます!がんばります! (2019年6月8日 19時) (レス) id: 17afb1acf0 (このIDを非表示/違反報告)
Mai Y(プロフ) - トミーのヤキモチをリクエストしたいです! (2019年6月7日 21時) (レス) id: bc7e167811 (このIDを非表示/違反報告)
ハクビ(プロフ) - 桃さん» リクエストありがとうございます!エイジくん初挑戦、がんばってみます! (2019年6月5日 20時) (レス) id: 17afb1acf0 (このIDを非表示/違反報告)
かのい(プロフ) - リクエストお答えありがとうございます!めちゃくちゃ良くてキュンキュンしました!これからも更新頑張ってください! (2019年6月5日 17時) (レス) id: 1702f55027 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ハクビ | 作成日時:2019年5月21日 19時