・ ページ3
あれからAにちょくちょく会いに行くようになった。昔の思い出話をしたり、水溜りボンドのことを打ち明けたり…
会えない時間、彼女のことを考えるようになった。
久々に、Aに会いに行こうと思った。
会いたいと思った。
『知義じゃん!なんか久しぶりだね?』
いつもと変わらない、この店に似合わない明るい笑顔でAは知義に話があるの、と言った。
『あのね、あたし、結婚するんだ。』
「…は?」
突然過ぎて間抜けな声しか出なかった。
え、結婚って、え?恋人ができたんならまだ分かる、え、結婚??
『だからこの店も今日で辞める。知義とももう会えない。』
最後のお客さんが知義で良かった、とAは笑った。
「…なに、それ。」
『…?知義?』
「…ああ、いや。結婚おめでとう。」
『ありがと。』
「相手、どんな人なの?」
Aは少し考えたあと、知義になら言ってもいいか、なんて苦笑いした。
『この店の常連さんでね。いっつもあたしを指名してくれる、お得意様ってやつ。この前急にプロポーズされてね。』
あたしは嫌だったんだけど、と彼女は長い睫毛を伏せた。
「嫌だった…の?」
『うん。…親がね、結婚しろって。なんかあの人、どっかの社長だったらしくて。ウチ、借金あるんだよね。あの人と結婚すれば借金も無くなるし、むしろお金持ちになれる。』
「…そんな…そんな結婚、お前は望んでんのかよ…」
『望んでるわけないじゃん。』
Aは薄く笑って続ける。
『言ったでしょ、嫌だって。あんな中年太りで傲慢なおじ様と結婚するくらいなら、あたしはここで働き続ける方がマシ。』
Aはそう言い切ると、俺が差し入れたレッドブルを一気に飲み干して、大きくため息をついた。
「…断れよ。お前にはお前の意思があるだろ、親なんだから分かってもらえ_」
『知義はなんにも分かってない!』
Aは俺の胸ぐらを掴んで叫んだ。その目からは、ぽろぽろと涙が零れていた。
『断れるはずない、だって、私、なんの為にこの店で知らない男に抱かれてきたの?全部借金のせいだよ、親のせいだよ!』
もう手遅れなんだよ、と言って彼女は震える手をそっと離した。
『…ごめん、もう帰って。』
項垂れてそう言うAに、俺はなんと声をかけていいか分からなかった。
256人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
杉猫(プロフ) - リク話ありがとうございます!もこ坂可愛い。゚(゚´▽`゚)゚。消しゴムの顔が思い浮かぶくらい可愛いお話ありがとうございました! (2019年6月12日 18時) (レス) id: 04ecf5769a (このIDを非表示/違反報告)
ハクビ(プロフ) - Mai Yさん» リクエストありがとうございます!がんばります! (2019年6月8日 19時) (レス) id: 17afb1acf0 (このIDを非表示/違反報告)
Mai Y(プロフ) - トミーのヤキモチをリクエストしたいです! (2019年6月7日 21時) (レス) id: bc7e167811 (このIDを非表示/違反報告)
ハクビ(プロフ) - 桃さん» リクエストありがとうございます!エイジくん初挑戦、がんばってみます! (2019年6月5日 20時) (レス) id: 17afb1acf0 (このIDを非表示/違反報告)
かのい(プロフ) - リクエストお答えありがとうございます!めちゃくちゃ良くてキュンキュンしました!これからも更新頑張ってください! (2019年6月5日 17時) (レス) id: 1702f55027 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ハクビ | 作成日時:2019年5月21日 19時