・ ページ15
#
『…っう…大丈夫、大丈夫…』
個室に篭もって、涙が零れないように上をむく。自己暗示みたいに大丈夫、という言葉を繰り返した。
大丈夫、慣れっこだ。小さい時から。小学校の時、男子に笑われて泣かなかったじゃない。だから今回も、大丈夫。
『…ふー、』
少し落ち着いた。手を洗って、メイク直しをしてお手洗いを出る。
個室までの道を歩いてると、突然ドンッ、と何かにぶつかられた。
『っきゃ、』
「あ…うわ、ごめんなさい!」
ゆら、と顔に影がかかった。誰かが自分に影を作ることなんて久々で、思わず目を見開いてぶつかってきた男の人を見上げる。
「あ、え!?ほんとごめん、泣かんで、」
その男の人はそのまま長い指を私の目尻に滑らせる。
え、泣いてる?
『な、泣いてないです!』
「え、でも目めちゃくちゃ赤いし…あと、ほんとごめんね、どうしよう…」
不思議に思って、しきりに謝ってくる彼の視線の先を辿る。
『あ…いや、これくらい大丈夫ですよ、』
男の人は手に中身の入ったグラスを持っていたらしく、その中身がぶつかった拍子に私のワイシャツにかかってしまっていた。
うん、これくらいなら別に目立たないし。
「りょうー!ナンパしんで、お会計しりんー!!」
遠くから男性の友達らしき人がこちらに向かって叫ぶ。
りょうさん?はチッと舌打ちすると、ナンパじゃねえ!ちょっと待っとれ!とあっちに向かって叫び返した。
『あのほんと、全然、お気になさらず。お友達も待ってますし。』
会釈して立ち去ろうとすると、りょうさんが待って、と私の手を掴んだ。
「これ、着といて!返さなくてもいいから!」
そのまま彼が着ていたパーカーを押し付けられ、呆気にとられる。何も言うことが出来ないまま、ごめんな、と彼は去っていった。
『…へんなひと。』
久しぶりに身長のことでびっくりされなかったなあ、と思った。
席に戻ると、友達に怪訝な顔をされた。
「あれ、Aそんなパーカー着てたっけ?…てかなんかサイズあってなくない?」
『…んー、確かに、ちょっと大きいかも。』
彼から借りた爪先まで隠れるパーカーを、きゅっと握った。
256人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
杉猫(プロフ) - リク話ありがとうございます!もこ坂可愛い。゚(゚´▽`゚)゚。消しゴムの顔が思い浮かぶくらい可愛いお話ありがとうございました! (2019年6月12日 18時) (レス) id: 04ecf5769a (このIDを非表示/違反報告)
ハクビ(プロフ) - Mai Yさん» リクエストありがとうございます!がんばります! (2019年6月8日 19時) (レス) id: 17afb1acf0 (このIDを非表示/違反報告)
Mai Y(プロフ) - トミーのヤキモチをリクエストしたいです! (2019年6月7日 21時) (レス) id: bc7e167811 (このIDを非表示/違反報告)
ハクビ(プロフ) - 桃さん» リクエストありがとうございます!エイジくん初挑戦、がんばってみます! (2019年6月5日 20時) (レス) id: 17afb1acf0 (このIDを非表示/違反報告)
かのい(プロフ) - リクエストお答えありがとうございます!めちゃくちゃ良くてキュンキュンしました!これからも更新頑張ってください! (2019年6月5日 17時) (レス) id: 1702f55027 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ハクビ | 作成日時:2019年5月21日 19時