愛咬【SN】 (ページ1)

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彼はとても細い。

筋力が無いのも勿論だけど元々沢山食べる方じゃないし、殆ど料理をしない。
終いにはお腹が空いてもゲームをしていると食べる事すら忘れてしまうそうだ。

生ものや油っぽい物が苦手だとか偏食気味な彼の食べられるものは限られていて、気付いたらブラックコーヒーばかり飲んでいる。

そして彼は外が嫌いだった。
正確に言うと日の光が苦手なんだそう。

特に朝なんか顔色は最悪で、白い肌がより一層青くなり、日の光が嫌いで吸血鬼なんじゃないかってくらい日陰を探して太陽を拒んでいる。

昔、何で?って訪ねたら眩しいじゃんって、笑いながら言われたことがあったっけ。
太陽なんだから当たり前なのに。
彼らしいと言えば彼らしい。

「そんなに見つめないでよ」

後ろに居た俺の視線に気づいたのか、ゆっくりと身体が振り向いた。

秋の柔らかくて優しい日差しが、彼の黒い髪をきらりと銀色に反射している。
眩しそうにして目を細めて下を向くと、長い睫毛の影がゆらりと頬に浮かぶのが見えて思わず綺麗だとこぼしそうになった。

「ごめんごめん、今日終わったらご飯行く?」

平然を装って笑いかける。
焦った、いつからか気付かれてたんだろ。
うぅんと唸る彼を横目に額の汗を手でぱっぱと払った。

5.6秒程少し考えた彼は、あ、と何かを思い出したかの様に口を開けた。

ああ、嫌な予感がする。

整った顔に浮かぶ薄い唇がゆっくり上がり、弧を描いて線が伸びる。

「おにくにがいいです」

俺達しか知らない、合言葉。

ふふんと言ってやったぞと勝ち誇ったような顔をした彼が子供みたい愛ららしくて、何だか意地悪をしたくなる。

「…わかったよ。でも、ニノがもうちょっと日光浴したらね」

そう言うと彼は上げていた口角をすっと落として、眉間にシワを寄せて嫌々そうに太陽を見上げる。

太陽に照らされた色白の肌は、オレンジ色が少しだけ増して幾ばくかは健康的に見えた。