轟くんの彼女11【轟焦凍】 (ページ8)

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456.ロミオとジュリエット6 ページ8

緑｢それよりまた乱闘があったそうだね。｣

尾｢たった今エスカラス大公が見えて、両家共にお叱りを受けたところだ。｣

緑｢だから父さんがいたのか。モンタギューとキャピュレット似たような歴史を持って、同じような商売をして共に若者を引き連れた同業者。長年の反目を捨て、協調の握手をしたら市民からも尊敬され、商売もうまくいき、誰も憎しみ合わずに済むのに、なぜ意味もなく罵り合うのだろう。何だか急に馬鹿らしくなってきた。だが啀(いが)み合っている方が、苦しい恋の呪縛よりは、遙かにましなのかも知れない。｣

尾｢だから今朝もスズカケの森に？｣

緑｢スズカケの兎はよく跳ねるね。僕もあんな自由に屈託なく飛び跳ねて見たいよ。｣

尾｢そろそろ答えてくれよ。一体誰に恋してるんだ？｣

緑｢誰と指すと、その人の名誉に関係するから言えないよ。｣

尾｢また判然として証拠の無いことだから、言うとこっちの落ち度になるだって。冗談はやめてくれよ。｣

緑｢失礼。本当は名前を知らないのだ。｣

尾｢すると一目見るなりぞっこんいかれちまうという。｣

緑｢そんな言い方はやめてくれよ。そういう時には、一目惚れという台詞でなくちゃ。｣

尾｢それはすまなかった。3日前に一目惚れに出会ったわけか。｣

緑｢そうあれは3日前...ちょうど夕闇のマントを着た夜を迎えるために、太陽神ヘーリオスが手綱(たずな)を引き締める時間だった。僕は橋の欄干にもたれながら、漂う水面に不思議な寂しさを感じて、はっとして我に返った瞬間、美しい女神が友達を連れて、そっと微笑みながら近づいてくるのだった。

その澄んだ瞳は、幼子のようにあどけなく、美しい笑顔は、咲きたての白百合のように瑞々(みずみず)しかった。そして神々の創りたもう女神が、何の準備もなく、突然現われた時の僕の動揺といったら、胸の高鳴りといったら！｣

尾｢お～いロミオしっかりしろ！｣

緑｢彼女は友達を連れていた。森の妖精ほどの価値をもつ友達の魅力も、比類ない神の芸術品に従うことによって、なんと哀れで俗物であったことか！なんとみすぼらしく、取るに足らないものであったことか！｣

尾｢分かった、もう分かったから、すこし落ち着け。｣

緑｢失敬な。僕はいつだって沈着冷静だ。｣

尾｢そうこなくっちゃロミオじゃない。それで誰だか見当も付かないのか。｣