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打ち上げは後日、と、話を通してもらっていた。今日はどうしても、君と話したいことがあって。
恒例の胴上げをしてもらったその手で、背中を強く叩かれた。
「頑張れ!」
「行ってこい!」
そんな声を背に受けて、楽屋へ走る。
「あ、まふ!指輪、忘れんなよ!」
...そらるさんの声に真っ青になり、一旦控え室に戻る。
財布などが入った鞄の一番奥深くに眠る、上品なデザインの箱。その中に、凛としたワンポイントの指輪があることを二、三回確認した。
ついでに汗を拭いて、崩れた髪を整えて。
あとは彼女が待つ楽屋へ向かって、会って、想いを伝えるだけだ。
控え室まではとても長く、遠く、感じられた。ライブも勿論緊張してドクドクと心臓が波打って、だけど今はその比じゃない。
自分を落ち着かせるように、だけど君を待たせないように通路を進む。長い長い一本道を歩くうちに、今日歌った、今日演奏した曲たちが頭の中に次々と浮かぶ。
自分の想いを詰め込んだ、伝えたいことを何度も作った、そんな曲たち。
あのときは確かそらるさんが炎上して。全く悪くないことで傷ついているそらるさんを見ていられなくて、そこまで追い込んだ風評にさすがに腹が立って。
イタリア語で「気まぐれ」を意味するように、そのときの気持ちを率直に。シンセとギターで音を飛び散らかして。
随分とやんちゃな曲になった、だけど反響は大きかった。
僕が曲を作って、そらまふうらさかでコラボした曲。
かなり遊んだ歌だった。歌詞もふざけて、台詞も足して。...台詞のはっちゃけ加減については最早漫才だが。録音中に懸命に笑いを堪えたこと、こんな時間をこれからもずっと___一生、旅していたいこと。
仲間と歌った、仲間を詰め込んだ、そんな曲だ。
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ほさと - とても感動しました。占ツクの歌い手様を扱った作品には珍しくしっかりと小説になっていて、一介の読書好きとしても嬉しかったです。どの作品もとても美しい比喩があり、音読したい作品だなぁと思いました。 (2019年7月14日 20時) (レス) id: fdc2472f82 (このIDを非表示/違反報告)
弓乃 - 皆様の素晴らしい文章に心が震えました。ありがとうございます。執筆お疲れ様でした。これからも頑張って下さい。 (2019年6月17日 16時) (レス) id: d99258de7b (このIDを非表示/違反報告)
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