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「数か月前、事故に遭ったの知ってる？」
彼が頷いたのを確認して、同じクラスだし知らないはずもないか、と思う。
私は数か月前事故に遭った。その時の記憶は曖昧だけれど、話によると下校途中歩道を歩いていたところに車が突っ込んだらしい。
幸い命に別状もなく、体も少しの間は動かすのが困難だったがリハビリの末今はなんともない。
ただ頭をぶつけてしまったせいで、少しだけ記憶が飛んでしまっているらしい。事故の時の記憶がないのもそれが原因だろう。
しかし、一つだけ事故の前と後で変わった点があった。
「事故の後耳がよく聞こえるようになった。前までは聞こえてこなかった音も、全部聞こえるようになった」
坂田くんが息を呑んだのを感じる。
さすがにそこまでは彼も気づいていなかったらしい。
「だから陰口だとか、ボソッと言った言葉だとかが全部聞こえてくるようになって。だから、私は音が嫌いになった」
「………そっか」
「うん」
私は視線を少し上げて未だ振り続ける雨を見た。
全く違うテンポを取り続ける雨。それなのに心地よいと感じてしまうのは何故だろう。
「だから雨の日は好き。雨の音で少しは音が耳に入ってこなくなるから」
「それは俺もわかる」
「坂田くんも？」
びっくりしてしまった。
明るい彼なら、天気のいい晴れの日が好きそうなのに。
彼はスッと立ち上がり、まだ雫が滴る黒い傘を持つ。
「なんか雨って嫌なことも全部流してくれるような気がしいひん？傘に当たる音とか、結構好きやし」
その時、ドクンっと強い鼓動が聞こえた。
私のではない。坂田くんの鼓動だ。
一体、どうしたんだろう。
そう思って彼を座ったまま見上げた。
目が合った。
今日二回目の経験だ。
けれど、今回は違う。
私を通してではなく、私をしっかりと見てくれているような気がした。
「来週の文化祭で、俺のバンドライブするんやけど」
より一層心臓の音が聞こえた。
雨の音にも負けない強い音。
「Aさんに、見に来てほしい」
「……え、なんで、私」
音が嫌いって言ったばかりなのに。
そしてあまり接点がないのに。
そんな思いで口に出した言葉。
坂田くんは私を見て、少し微笑んだ。
「待ってるな」
あ、あと。
そう言って彼は歩き出そうとした足を止めた。
「音が嫌いって言ってたけど、ちゃんとAさんは音好きやと思うけどね」
「……え？」
「雨の音、好きなんやろ？」
それじゃあ、と歩き出す後ろ姿をただ見ることしかできなかった。
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ほさと - とても感動しました。占ツクの歌い手様を扱った作品には珍しくしっかりと小説になっていて、一介の読書好きとしても嬉しかったです。どの作品もとても美しい比喩があり、音読したい作品だなぁと思いました。 (2019年7月14日 20時) (
レス) id: fdc2472f82 (このIDを非表示/違反報告)
弓乃 - 皆様の素晴らしい文章に心が震えました。ありがとうございます。執筆お疲れ様でした。これからも頑張って下さい。 (2019年6月17日 16時) (レス) id: d99258de7b (このIDを非表示/違反報告)
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