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「てか、ひっどい雨やなあ……雨粒大きいし」
ぶつぶつと呟いているけれど果たして反応していいのか迷う。
独り言なのか微妙なライン。
「ねえ、Aさん。俺もここで雨宿りしてもいい？」
これは疑問形だったから確実に独り言ではないだろう。
私はこくんと頷いた。
その様子を見て嬉しそうに笑う坂田くんを見て、きっとこの人懐っこい笑顔が皆から愛されている理由なのかななんて思った。
けれど不思議だ。
なんで、坂田くんは目立たないクラスメイトの横に座りわざわざ雨宿りなんてしようとしているのか。
クラスで話すか、と言われても特別たくさん話すというわけでもない。
それなのに、なんでだろう。
そんなのはいくら耳がよくてもわかりやしない。
「違ったら申し訳ないんやけど、」
坂田くんの言葉に俯いていた顔を上げた。
「Aさんって、音が嫌いやろ？」
「えっ、」
「合ってる？」という彼の言葉もあまり耳に入ってこなかった。
それ以上に衝撃が大きかったのだ。
なんで、そんなことわかったんだろう。
誰にも言ったことなかったのに。
耳が人よりいい、ということも音が嫌いだ、ということも。
沈黙を肯定と捉えたらしい彼は「やっぱりか」とぼやいた。
やっとの思いで出した声も震えてしまう。
「なんで、そう思ったの？」
「んーなんか逃げてるように見えた、からやな。普通にしてるけど全ての音に対して耳を塞いでいるように見えた」
思った以上に彼は人のことをよく見ているらしい。
よほど他の人のことを気にしていないと特に私みたいな教室の隅っこにいるような人が音が嫌いだなんて気づかない。
そう思いながら彼の方を見ると坂田くんも私の方を見ていて、ばっちり目が合ってしまった。
……こ、これはどうすればいいんだろう。目を逸らすべきなのだろうか。
と、考えて気づく。
彼とは目が合っていない。
周りから見たら目が合っているんだろうけど、実際は違う。
彼は私を見ていない。私越しで“誰か”を見ている。
そのことに気づいて何故だか心が軽くなった。
私の心に触れられるのはどうも苦手だ。だから自ら自分のことを話すのも抵抗がある。
けれど、彼が私を見ていないのであれば。
「坂田くん、私ね」
突然私が話し始めて坂田くんはびっくりしたように肩を揺らした。
もう震えていない声に驚く。
嗚呼、きっと、私は、
(誰かに聞いてほしかったんだ)
雨音が心地よいBGMに聞こえてきた。
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ほさと - とても感動しました。占ツクの歌い手様を扱った作品には珍しくしっかりと小説になっていて、一介の読書好きとしても嬉しかったです。どの作品もとても美しい比喩があり、音読したい作品だなぁと思いました。 (2019年7月14日 20時) (
レス) id: fdc2472f82 (このIDを非表示/違反報告)
弓乃 - 皆様の素晴らしい文章に心が震えました。ありがとうございます。執筆お疲れ様でした。これからも頑張って下さい。 (2019年6月17日 16時) (レス) id: d99258de7b (このIDを非表示/違反報告)
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