【となりの坂田。】ずっと言いたかった言葉を。/菊香 ページ21
音が楽しいと書いて“
きっと私は音が苦しいと書いて“
なんてどこのポエムだろう、と自虐的な笑みが零れそうになりながら雨が降り注ぐ街を眺めた。
雨の日は割と好きだ。
雨音がこの世界の音をかき消してくれるから。耳に入る音が少しでも少なくなるから。
ある時から私は耳が異常に良くなった。
普通の人なら聞こえないような小さな物音も、その人には聞こえないように陰で言う悪口も、全部全部私の耳には入ってくる。
呪いだ、と私は勝手に思っている。
聞こえたくない音も聞こえてくるなんて、一体前世の私は何をやらかしたんだろう。
そんなこと考えたって答えなんて出る筈ないのに。
けれどそうやって考えないと今を生きる私がどうしても報われない。
高校の帰り道に通る公園の雨避けできるベンチに座り、ボーっと落ちてくる雫たちを見つめていた時。
ふと目の前に人影が出てきた。
この公園の中通る人なんて珍しいな、と思い通り過ぎるのを待っているとその人影は私の方に歩いてきて屋根のある場所まで行くとパタンと黒い傘を閉じ、私の隣に腰かけた。
……って、いやいやいや普通隣に座るか？
もう一つベンチあるじゃん！そっち座れよ！
と叫びだしたくなる衝動に駆られていると相手の服装がよく見慣れたものであることに気づいた。
私の高校の制服だ。しかも同じ学年。
いやそれならなんでわざわざ同学年の隣に座る？
私の制服見たら同学年だってすぐに気づくはずだ。
「A……さん、だよね？」
悶々と考えているとその相手に声をかけられて思わずビクッとなった。
その時初めて相手の顔を見て、やっと気づいた。
同じクラスの、坂田くんだ。
ずっと顔は見てなかったから誰か気づいていなかったけれど、坂田くんだったのか。
彼は明るく優しく、おまけに顔も整っているのでクラスの人気者だ。
少なくとも、私とは生きている世界が違う。
そんな人に名前を覚えてもらっていたなんて正直驚いた。
「……坂田くんよく覚えてたね、私の名前」
「え？クラスメイトの名前覚えるのって普通やない？」
「現に俺の名前も覚えてるやん！」と言われたが彼は人気者なので坂田くんの名前を覚えているなんて当たり前のような気がする。
けれどこれ以上言っても伝わらなさそうなので曖昧に頷いておいた。
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違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ほさと - とても感動しました。占ツクの歌い手様を扱った作品には珍しくしっかりと小説になっていて、一介の読書好きとしても嬉しかったです。どの作品もとても美しい比喩があり、音読したい作品だなぁと思いました。 (2019年7月14日 20時) (
レス) id: fdc2472f82 (このIDを非表示/違反報告)
弓乃 - 皆様の素晴らしい文章に心が震えました。ありがとうございます。執筆お疲れ様でした。これからも頑張って下さい。 (2019年6月17日 16時) (レス) id: d99258de7b (このIDを非表示/違反報告)
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