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翌日はよく晴れた日だった。
天気予報は軒並み快晴を告げていて、上着なんて必要としないくらいだった。
「すまん!!!」
「だから言ったのに……」
そんな雲一つない青空の下、俺は両手を合わせて仁王立ちしている彼女に謝っていた。
あの後、夢も見ずに爆睡してしまった俺が次に見た時間は…待ち合わせ時間30分前。
「もー……」
「いやホント悪かったって…!」
案の定、待ち合わせには30分ばかし遅刻をした。
自分の家から近いところを待ち合わせにしたのは不幸中の幸いといったところや。
「今日のご飯、まーしぃのおごりだからね!」
「ま、それはしゃーないな。んじゃ…行こか。」
「ん。」
差し出した手に彼女の手が絡まる。
こんな些細な事でも幸せと感じれるのは、それ程までにAが好きだからだろう。
今日はどこに行こうか、定番のデートコースはショッピングして飯食って、カラオケだ。
俺らのデートはほとんどがこれで。だから今日もこうなる予定だった。
「にしても、今日は暖かいというよりは暑いね!」
「そうやな…ショートパンツでもよかったのにな。」
「…年齢的にそろそろきついよ?」
「Aの見た目ならまだいけるやろ。」
そんな能天気なことを話しながら歩いていた俺は、ふと視界の隅っこにとらえたトラックが気になった。
いつもなら何も思わないというのに、なぜか気になってしまったのだ。
「まーしぃ?どうしたの?」
「ん?いや、何でもないで…!?」
言い終わる前に、異変に気が付いた。
そのトラックが、赤信号を前にしているのにもかかわらずスピードを落としていないということに。
そして、けたたましくクラクションを鳴らしているということに。
どんどん加速していくそれの、向かっていく先に……俺らがいるということに
「……っつ!?A!!!」
「え、あ…」
周囲の叫び声が、クラクションの音が、放心したように動かなくなってしまった彼女が
そして、本来ならば猛スピードで突っ込んできているはずのトラックが。
何もかもがスローモーションのように見えた。
とっさに彼女を抱き締めて、自分の身を盾にせんとばかりに包んだ刹那
体験したことのない衝撃が俺を、俺達を襲った。
腕の中のぬくもりは消え去り、浮遊感と衝撃、痛みで視界が黒に染まる。
最後に感じたのは、指先に触れる感触と
『まーしぃ……愛してる……』
か細く消えゆくような、彼女の愛言葉やった。
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ほさと - とても感動しました。占ツクの歌い手様を扱った作品には珍しくしっかりと小説になっていて、一介の読書好きとしても嬉しかったです。どの作品もとても美しい比喩があり、音読したい作品だなぁと思いました。 (2019年7月14日 20時) (レス) id: fdc2472f82 (このIDを非表示/違反報告)
弓乃 - 皆様の素晴らしい文章に心が震えました。ありがとうございます。執筆お疲れ様でした。これからも頑張って下さい。 (2019年6月17日 16時) (レス) id: d99258de7b (このIDを非表示/違反報告)
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