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演奏会が終わってすぐ、先輩から会場に残るようにというメールが届いた。でも、元々帰るつもりなんてなくて、先輩には聞きたいことが沢山あって。
「うらたくん」
「先輩...」
「今日は来てくれてありがとうね」
「いえ。それよりあの曲ってやっぱり」
何事もなかったかのように話しかけてきた先輩。
「覚えてた?」
「当たり前です」
「じゃあ、伝わったでしょ?」
「はい。伝わりましたよ、先輩の想い。あれは僕宛てだって、そう自惚れてもいいんですよね?」
そう問いかければ、先輩はほんのりと頬を赤く染めてうなずいた。そのしぐさが可愛くて仕方がない。
「先輩、僕の想いも聞いてくれますか」
「もちろん。うらたくんの想いを聞かせて?」
「僕も先輩のことが好き。あの日、先輩があの曲を演奏していた時からずっと」
「本当に...?」
「こんな状況で嘘なんてつきません」
先輩の目を見てはっきりと自分の想いを伝える。嘘じゃないと本当だと伝えるために。
「あぁ、もう。泣かないでくださいよ」
「だって、絶対振られると思ってたから」
安心したからか、緊張が解けたからかはわからないけど、なぜか泣いてしまった先輩を抱きしめて、背中をさする。
しばらくそうしていると落ち着いて涙も止まったのか、僕の背中をぽんぽんと軽く叩いた。
「落ち着きました?」
「うん。ありがとう」
「気にしないでください。僕がやりたくてやったことなので。
あ、そうだ。僕ずっと気になってたんですけど、どうして叶わない恋の曲を想いを伝える時に演奏しようと思ったんですか?」
ずっと疑問に思っていたことを口にすれば、先輩は少し悩んだ後に口を開いた。
「叶わない恋だとしても"私は貴方に恋をしています"ってことを伝えたかったから。知っておいて欲しかったから。それに、両想いだって確証もないのに両想いの曲で伝えたって、振られた時が辛いでしょ?」
なるほど、先輩らしい考え方だと、そう思った。
「結果的に両想いだったんですから、次は明るい恋の曲演奏してください」
「えぇ、どうしようかなぁ」
なんていたずらっ子みたいに笑う先輩は、すっかりいつも通りで。
「先輩、明日も先輩のピアノ聴きに行ってもいいですか?」
あの日、先輩と出会った日と同じ問いかけを先輩の投げかける。
「もちろん!」
先輩もあの日と同じ笑みを浮かべてうなずいた。
これからはただの先輩後輩という関係じゃなくて、恋人という新しい関係で幸せな時間を奏でていこう。
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ほさと - とても感動しました。占ツクの歌い手様を扱った作品には珍しくしっかりと小説になっていて、一介の読書好きとしても嬉しかったです。どの作品もとても美しい比喩があり、音読したい作品だなぁと思いました。 (2019年7月14日 20時) (レス) id: fdc2472f82 (このIDを非表示/違反報告)
弓乃 - 皆様の素晴らしい文章に心が震えました。ありがとうございます。執筆お疲れ様でした。これからも頑張って下さい。 (2019年6月17日 16時) (レス) id: d99258de7b (このIDを非表示/違反報告)
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