TO BE WITH YOU (ページ9)

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父と二人で大人の初心者と子供の合同の習字のお稽古を終えてから、和君に連絡をしたらあっけなく振られてしまった。

出不精って聞いてたけど、絶対外だった。
誰といるのとか、どこにいるのとか、携帯を通して街の喧騒が耳に飛び込んできた瞬間に聞けなくなってしまった。

だって聞いてどうするの。
彼女といるって言われたら、落ち込むし。
彼女といないって言われても、嘘をついているんじゃないかって疑心暗鬼に陥るだけだし。

会えない、ただそれだけでがっくりきているのに、自分で自分に追い打ちをかけるまねをしなくてよかった。
うう。
それでも泣いちゃいそうで、大きく深呼吸して涙をやり過ごす。

「おーーA」
不意に名前を呼ばれて振り向くと、ふんわり笑顔の智君が立っていた。

「あれ？今日はどうしたの？」
智君に会えてびっくりしたのか、嬉しいのか。涙が引っ込んでしまった私は現金だ。
「お師匠さんに呼ばれたんだよ」
智君は私の父をお師匠さんと呼ぶ。
「そっか」
「この間個展見に来てくれたんだって？」
「うん」
「連絡してくれればよかったのに」

智君はむうっと口を尖らしていじけたふりをした。

こんなにかわいらしい人だったっけ、智君って。
あの頃から、少しは追いついたのかな。

智君は私より三つ歳上で、昔父の書道教室に通っていた元生徒さんで、今はイラストレーターだ。
小学生の時の三歳歳上って、とっても大人な感じがした。話だって何だか噛み合わなくって、それが自分が子供っぽいからだって気づいた時、智君と話すのが恥ずかしくなった。

今思えば、智君は私の初恋だった。

当時の潤君は私よりもチビで、言っていることもやっていることもガキンチョな、年相応の小学生な男の子で、恋する相手とは違った。

中学生の頃には智君の興味は絵にシフトしていって教室をやめてしまったけれど、今でも父と仲が良い。

「すごーく良かったよ。あの、麒麟の絵」
「んふふ、あー、あれ？」
「うん」

広い青空の下、草原にいる二頭の麒麟が優しく寄り添っていて。

こんな風になりたいって。
始まったばかりの恋の行方がわからなくて。
心細くて画廊の隅で泣きそうになった。

和君の隣にいるのは誰なのかなって疑問は、いまだに解決していない。

「麒麟の絵褒めてくれてんのに、なんで泣きそうになってんの？」

ぽんぽんって私の頭を撫でる手は、どうして和君じゃないの？

「だって思い出したの。あの絵のこと」

智君の絵は、私を捉えて離さない。