TO BE WITH YOU (ページ7)

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車で母を職場まで迎えに行って病院の裏口から顔を出すと、母はまだ後片付けをしていた。

そこらへんに座ってて、と指し示された待合室で待たせてもらうことにした。

「Aちゃん？」
名前を呼ばれて声がするほうを見ると、ちょっと皺のついた白衣と聴診器が目に入った。

「もしかして、櫻井先輩？」
「そうそう。久しぶり。俺が高校卒業した時以来だから、もう十年以上？」
「はい。やだ、先輩、白衣着てるー！」

ふはは、と豪快に笑った櫻井先輩は、昔少しチャラい時期があったけれど、今は落ち着いた雰囲気の柔和なお医者さんの顔をしていた。

「お母さんの迎えに来てるの？」
「はい、そうです」
「潤は元気？」
「元気だと思いますよ。電話をたまにするくらいで、今はあんまり会ってないんです」
「そっか、すっかり有名人だもんなー」

私はここでも、潤君とセットで見られてしまう。

「Aちゃんは？今なにしてんの？」
「会社員ですよ、父の手伝いで子供たちに書道を教えたりもしてます」
「そっか。懐かしいなあ。俺全然上達しなくて
すぐ辞めちゃったもんな。お父さん元気？」
「はい、元気ですよ」

二つ上の櫻井先輩は、子供の頃うちの書道教室に通っていたことがある。

「Aお待たせ。あら、翔先生と話してたのね」
「吉田さんお疲れ様でした」
「今日は娘とこれからランチなのよー。翔先生も良かったら一緒にどう？もう仕事終わりでしょ？」
「あーー、超行きてー。だけど、俺大学に戻んなきゃなんなくて」
「翔先生ね、今日はお父様の代診で来てくださったのよ。普段は大学病院にいるの」
「そうですか、お仕事大変そうですね」
「うん、まだまだ駆け出しだから忙しいかな。ランチ、行きたかったなー。また今度、絶対行きましょう」
「はーい、先生お疲れ様でした」
「櫻井先輩、さよなら」

「Aちゃん」

櫻井先輩に後ろから声をかけられて振り向くと、ポンと頭を撫でられた。開け放たれた裏口から差した陽が白衣に反射して眩しくて、思わず目を細めた。

昔から成績優秀でかっこよくて、だけど気取ってなくて明るい先輩は、潤君と私のお兄ちゃんみたいな存在だった。

「また、ね？」
「はい、また」

櫻井先輩も、私の後ろから差す光が眩しいのか、目を細めて笑った。