TO BE WITH YOU (ページ33)

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「ちょっと、こっち座ろっか」
「はい」

櫻井先輩に誘導されてソファに座る。
熱は引いたと思うけど、まだ世界がボヤけてる。

「ところでさあ、Aちゃんっていつから俺のこと先輩って呼ぶようになったんだっけ？昔は違ってたよね？」

ぽすん、と櫻井先輩が隣に腰掛ける。
先輩がソファに座った弾みと重さで、引っ張られるように先輩の方へ傾いた身体を、なんとか立て直す。

「あれ、中学生の頃かなあ。先輩が、先輩の学校の後輩の女の子に、さくらいせんぱーいって呼ばれてるのを潤君と見ちゃって、ふざけて呼ぶようになっちゃったんです」

櫻井医院の息子さんは、小学生の頃から名門私立の学校に通っていたけれど、地元の公立の学校に通う私や潤君とも仲良くしてくれて、私達は勉強を見てもらったり遊んでもらったりしていた。

「あー、そうだ。思い出した。俺の超絶モテ期の頃ね」
「潤君はすぐ先輩呼びやめちゃったんですけどね、私は戻すきっかけをなくしちゃって」
「あ、超絶モテ期のくだりは無視なんだ？」
「無視っていうか、事実過ぎて否定できませんよ」

櫻井医院の裏にあるご実家に、ファンっぽい女の子が先輩を待ち伏せしているのを、何度か見たことがある。

翔君は、いつの間にか私や潤君とは違うところにいた。
中学生になって、学年が違うと対等な関係を築けなくなることを知った。
学校が違うから関係なかったのかも知れないけれど、都内の一等地にある学校に通っていた翔君は、私と潤君よりも駆け足で大人になっていった。

悔しいと嫉妬とかそういう感情じゃない。
眩しくて、手が届かなくて。
ちょっと寂しい感じがした。

だから、先輩って、線引きをしたままにしたのかもしれない。

「櫻井先輩ってさ、いかにも青春って感じで嫌いじゃないんだけど、もうそろそろ元の呼び名に戻してくれないかな？」
「えー、今更ですかあ？」
「俺もさ、もう三十越したしねえ」
「わかりました。善処します」
「はい、お願いします。ていうかさー」

俺、腹減っちゃった、って抱き締めたクッションで顔を隠して恥ずかしそうに言うから。

なんとかしてあげなくちゃって、怠い身体のままだったけどキッチンに向かった。