TO BE WITH YOU (ページ32)

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「あ、気づいた？」
「はい」

身体が嘘みたいに軽くなっている。
汗をかいて身体がベタベタで不快だけれど、熱も引いているのがわかる。

そうじゃなくて。
あれ？

おでこじゃなくて、首に手を当てられて、体温を確かめられた。

いつのまにか冷えピタが貼ってある。

「うん、大丈夫そうだね」
「みたいです。あの、なんでここに？」

櫻井先輩が、一瞬だけ口を大きく開けて、短く笑った。

「うちの親父の診療所の送別会に呼んでもらったから仕事終わりに顔を出したんだけど、そしたら吉田さんが帰るって言うからさ、理由聞いたら娘さんが風邪だから行かなきゃって言うんだけど吉田さん少し酔ってて、俺は車だったし飲むつもりなかったから、住所聞き出して代わりに来たんだ。納得？」

こくこく、と首を縦に振る。
あ、ちょっと気持ち悪い。

「ドアが開いたら、Aちゃんが倒れてきて慌ててベッドに運んだけど。大したことなさそうで良かった」

て、言うか。
何、この匂い。
鼻から二回空気を吸って、その出処を探す。

「なんか、臭い」
「あっ、やべっ」

櫻井先輩がただでさえ丸い目を、もっとまん丸にして、狭い部屋をバタバタとキッチン目掛けて走って行った。

私も気になって、ゆっくりと後を追う。

「ごめん、お粥でも作ろうと思ったんだけど」

うわーやっちゃった、と言って鍋の中のお粥らしきものを見せてくれた。

これは、酷い。

「もう、ここまでくると芸術の域かもしれないですね」
「ほんっと、ごめん」

タンパク質の熱伝導率半端ねー、と言いながら、櫻井先輩が焦げ付いた鍋を水にさらした。

ここまで酷いって、きっとあんまりない。
キッチンの換気扇を回したら、櫻井先輩が叱られた子供みたいに眉毛を下げてショゲるから、ついつい笑ってしまった。

笑っておこう。
さっきまで落ち込んでいた気持ちを上へ上へ無理にでも押しやらないと。
今は、まだ。

ゆるーく、力を抜いて。
櫻井先輩がちょっと情けない表情で笑う様子を見ながら笑っていたら、柔らかく穏やかになった。

だけど頭が揺れたせいか、ふらふらした。

「おっと」
ぐらり、と歪んだ視界を、櫻井先輩が正しい位置に戻してくれた。

抱き支えてくれた腕は暖かくて優しくて、料理は下手だけど、頼りになる。

会いたい。

今ここにいない人を思い出したら。
ほら、やっぱりまた泣けてきた。