TO BE WITH YOU (ページ29)

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お邪魔します、と言って脱いだ靴を揃えて、相葉君がうちに上がった。
意外とキチンとしているんだな。

そう言えば、社員旅行とか同期会の時に見た相葉君の私服の感じとは、今日は違う。
スーツで来る必要はないって言っておいたけれど、白い半袖のシャツにグレーの細身のパンツを合わせていて、清潔感のある格好をしている。

リビングに通された相葉君は父と母を前に緊張をしていたみたいだけど、簡単に自己紹介をした後、私達の馴れ初めや会社の様子なんかの母の質問にそつなく答えた。

この日のために、私達はあらかじめ質問に対する答えを用意していたのだ。

「相葉さんはおいくつかしら？」
「今年30になります」

母と相葉君のやり取りをずっと黙っていた聞いていた父が、口を開いた。

「うちの子との結婚は、考えていますか？」

この質問には、私が答える予定だった。
いくらなんでも相葉君に答えさせるわけにはいかない。
私がお茶を濁さないと。

「お父さん、私達まだ付き合い始めたばかりでそこまでは」

お互いに考えていない、と続けようとしたら、隣の相葉君が優しい声で私の名前を呼ぶから、驚いて話を止めてしまった。

「A、俺に話しさせて？あの、Aさんの言う通り、お付き合いを始めたばかりなのですぐに結婚とはお約束できません。もっと上を目指すべく仕事に集中して、結果を出して、認められるようになりましたら」

相葉君が、ただでさえ良い姿勢なのに、更に背筋を伸ばした。

「必ず、Aさんを幸せにします」

ね？って、相葉君が照れた顔をしながら私を見つめた。

打ち合わせにはなかった、この受け答え。

演技とは言え、顔から火が出るんじゃないかってくらいに恥ずかしくなる。

これがもし、和君だったら。
こんな破壊力のある言葉を、和君の口から聞きたいのに。

なんて一瞬思ってしまった。

そして一気に襲ってくる罪悪感。

私のためにここまで言ってくれた相葉君に、本当に申し訳なくて。
私の未来を案じていた両親が、安心したのか、ニコニコしている。
和君だって、もしこのことを知ったら？

私のために嘘を吐く人。
私の嘘に喜ぶ人。
私の嘘を知りもしない人。

大事な人達に対して、私、何してるの？

赤くなった顔にパタパタと手で風を送る相葉君の顔を見ていたら、泣きたくなった。