TO BE WITH YOU (ページ15)

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船酔いした、と父が急にグッタリしたら、智君が船長さんに引き上げるように指示して、あっという間に船は港に着いた。

父に肩を貸して歩き出した智君の後を、釣り用具一式とクーラーボックスを持って追い掛ける。

船長さんと別れて、帰りは私が車を運転して帰った。父は後部座席で横たわっていた。

「お父さん、よく船酔いするの？」
「いや、うん、あー、たまにね」
助手席の智君が考えながら答えた。

「歳だからなぁ」
小さな声で父が遅れて答える。

そうだよね、私もいい歳だもの。
お父さんだって、歳を取る。

家に着くと母が玄関から飛び出してきた。
「お父さん！」
「ああ、大丈夫だから」
母は慌てて後部座席のドアを開け、そのまま横たわっている父のおでこに手を当てて熱を測ったり、脈を取ったりしてから、病院に連れて行くと運転席に乗り込んで発車してしまった。

「なんか大袈裟じゃない？」
釣り具を持って帰る用意をしている智君に聞く。
「大丈夫だよ、お母さんついてるんだし」
「そっかな」
「大丈夫だから、気にすんなって」

帰り支度を済ませた私達は家を出た。

駅まで歩いている途中に智君の家があったけれど、送ってく、と智君は釣り用具を置きに行ってからすぐに戻って来てくれた。

心なしか智君も元気がないような気がする。
あまり話はしないまま、駅に着いた。

「あ、パーカー返さなきゃ」
「冷えてきたから着て行きな」
「ありがと」

じゃあ、と立ち去る智君の背中を見つめる。

ありがとう。
応援していると言ってくれて、嬉しかった。

心強く思うのに、泣きそうになるのはなぜだろう。

だけど何も考えられない。考えたくない。

帰ったら、眠ろう。
朝五時前に起きたんだもん、疲れてるんだ。

泥のように疲れた身体を引きずって歩き、マンションのエントランスに到着した時。

「A」

愛しい人の、声がした。