受胎載天編 第1章 4 ページ21
伊地知side
「……ハァ」
常さんが自室へ向かったのを確認し、私は溜息を吐いた。
常さんへの恐怖から開放された安堵。
そして、疲労。
常さんは普段は呪術師の中では割と優しい方だと感じる。
確かにコミュニケーションの中では弄り合いもあるが、決して人の地雷を踏み抜かない人だ。
悲しい事に彼女が五条さん達と会う前の、彼女の家族からの扱いの影響もあるのだろうが。
私も少ししか聞いてないが、夏油さんから聞いた話はとても酷かった。
かと言って、だから、私が彼女に優しく接している訳ではない。
彼女の元々の人柄もある。
庵さんや五条さん程ではないが、私だって彼女を幼い頃から見て来たつもりだ。
だからこそ分かるのだ。
先程の彼女は完全に怒っていたと。
優しさ同様彼女は感情そのものをあまり出さない性格だ。
だけど、怒りとなれば、又違う。
＿＿数年前の事だ。
常さんがある任務を請け負った時に、ブチギレているところを見たのだ。
私はその時、常さんの補助監督だった。
遺伝的ではない一般家庭なのに呪力を持って、生まれた児童が夜中に町を歩き回り、蠅頭レベルの低級呪霊に襲われた事件の時だ。
夜中に歩き回っていたのは、親から追い出された為。
児童には呪霊に襲われた傷の何倍も重症な傷が虐待により付けられていた。
『自分の子供を虐待なんてするな!』
家入さんの反転術式により回復した子供を見、再会した母親が、再び罵詈雑言を吐いた時だった。
泣き叫ぶ様な悲痛な声だった。
きっと、過去の自分の姿と重なったのだろう。
＿＿今の常さんの殺気はあの時と酷似している。
まるで全てを破壊しかねない様な鋭い何か。
それだけで呪力が溢れていた。
「……伊地知」
背後から五条さんの声がする。
五条さんが帰って来たのか。
「悠仁の所まで連れて行って」
「はい」
……血の繋がりの無い義兄妹なのに、ただの師弟の関係なのに、どうしてこうも殺気は似るのだろう?
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作者名：陽毬 | 作成日時：2021年6月10日 16時
