【d!】茫々 (ページ13)

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106話ページ13

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「なー、Aさん、これ教えてくれへん？」

勉強会も後半。

とりあえず問題集を進めていたら、隣にふわふわの髪の毛が視界に映った。

チーノくんだ。

見せられたテキストには、“科学”の文字。

『げっ、科学……』

「苦手やった？」

『いい思い出がないけど苦手ってほどではないよ』

どこかのマッドサイエンティストの所為で、私の頭に浮かぶのは少し危険な実験の数々。

あれは楽しかったけどハードだったなあ。

『どこが分からないの？』

「ここ」

うわ、面倒くさそうな問題。

でもまあここなら教えられないことも無い。

私がテキストを読み込んでいる間、隣のチーノくんは頬杖をつきながら私を見ていた。

『これは、―――……』

説明を始めると、チーノくんは真剣に私の話を聴き始めた。

「だからこれはこうなるんか」、「まって、今のとこもっかい」、「理解した！これで完璧や」

そんな会話を重ねながら教える事数十分。

その範囲をマスターしたチーノくんは、嬉しそうに拳を握った。

「流石Aさんですね！
やっぱり教え方が分かりやすい……！」

『……？
今日以外でチーノくんに何か教える機会なんてあったっけ？』

「あれ……無い、いや、あるはず……」

私が疑問をぶつけた途端、彼の様子が変わった。

チーノくんの目は焦点が定まらず、何かを必死に思い出そうとしている様子。

まさか、記憶が。

いや、そんなことより具合が悪そうなのはどうにかしなければ。

幸い、チーノくんの声が小さかったおかげで、騒がしいこの部屋でこの事態に気づいた人はいない。

『無理しないで。
深呼吸して』

チーノくんの目を手で覆って、深呼吸を促す。

私の顔が視界に入るだけでも影響を与えかねないから。

『一旦考えるのをめようか。
私は、いつまでも待ってるから』

そう伝えてしばらくすると、過呼吸気味だったチーノくんが段々落ち着いてきた。

それを見て、私は今しがた注いだお茶を渡す。

『落ち着いたみたいだね。
はい、お茶。
深くは聞かないけど、君の中で整理がついたなら話聞くよ』

「おん……」

チーノくんは小さく頷き、お茶を1口飲んだ。