マカロニマカロン (ページ12)

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驟雨の中、駆け出して *sb ページ12

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　急に降りだす、にわか雨。

　外れてしまった天気予報を嘆く人々で溢れ返っている駅前は、いつもよりずっと騒がしい。声と雨音が混ざって詳しい話は入ってこないけど。

「……はあ」

　せっかく定時で上がれたのになぁ、なんて空を睨み付けても鈍色の雲が覆い隠してしまっている。

　溜息ばかりが零れる18時過ぎ。全く今日はツイてないって言葉が頭を過ぎる前に、手に持っていたスマホが震えた。

　職場かな？親かな？
　――私が好きな彼だったり、するかな？

　淡い期待を抱きつつちらりと画面を見ると、彼の名前が表示されていてドクンと心臓が煩くなった。即座にスライドして電話を取る。

「！も、もしもし？」
「“A？え、出んのはや。暇かや”」
「急に雨が降り出して駅で足止めくらってたの」
「“なる〜”」

　“おつかれ”とけらけら笑う柴田の声にどうしようもなく好きだと思ってしまう。

　雨は降り続いているけど、一瞬で心は晴れやかだ。

「で、いきなりどしたの？」
「“あー……”」

　歯切れの悪い柴田に“ん？”と続けるように促すと思ってもない言葉が返ってきた。

「“Aに、会いたくて”」

　突拍子のない言動、光るワードセンス、奇抜な髪色、洋服もハイブランドで尖ってる……そんな男だ。彼は。

　友達って括りで見る柴田裕輔はそういう人だって分かってるのに、スマホから響く声はやけに真面目だった。会いたい、なんて低い声で囁かないでよ。

　彼の一直線な言葉にくらくらする。

「え――ええと、？」

　困惑する私にもう一度“会いたい”と告げる彼。
　ぎゅっと自分の胸の辺りを掴んで浮き足立つのを抑える。

「えっと……」
「“会いに来てよ”」
「は！？」
「“――やっぱ行くわ。今、新安城だら？”」
「そ…うだけど」

　最寄り駅を忘れるはずがないのに、先程出て来た改札を確認しながら頷く。心臓が煩くて仕方ない。

「“駅前じゃ拾えんから路地入って、屋根あるとこおって”」

　そんな言葉が耳に届いて、気付けば“わかった”と首を縦に振っていた。
　スマホをしまい込んでいつもと反対側の出口に向かう。

　甘い響きに期待が膨らんで抗えるはずもなく、着ていた上着で雨を避けるようにしてヒールを鳴らした。

　――あいたいよ、私も。

　少し待ってれば止むと分かっていても雨の中駆け出すなんて。

　馬鹿みたいに彼が好きだね、って雲の隙間から覗いた青に笑われた気がした。

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