箱の中 *ry ページ11
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仕事が一段落ついたタイミングで終業のチャイムが鳴った。
「あ、お先失礼します〜」
「Aちゃんおつかれ！」
「お疲れ様です」
残業を頼まれる前に席を立って、ニコニコと笑顔で部長の脇を通り抜けトイレに滑り込む。
そのままスマホを確認すると、昼休憩の時に送ったメッセージに“了解、がんばれ”と返事が入ってた。
「……やった、久々にこの時間から会えるかも」
スマホを握りしめてふふ、と笑うと お気に入りの色のリップを取り出して塗り直す。
“A今日定時？”“上がれそうだったら一緒に帰ろ”とLINEが来てて、それに“多分大丈夫。下で待ってるね”と送った。
その返信がさっきのメッセージ。
…相手は亮くんだ。
現場での作業が多い亮くんは朝早かったり夜遅かったり……かなり変則的な勤務スタイルで。
会社でデスクに齧りつくことは滅多にないから、“会社にいる”のも“定時上がり”も奇跡に近い珍しさだった。
思わずガッツポーズしてしまうほど嬉しくてメイクに気合が入る。
「よしっ」
髪型オッケー！メイク直しオッケー！と鏡を確認して、最後に香水を一振りしてからバッグを掴む。
トーク画面を開き“下向かうね！”と打ちながらエレベーターに乗り込んで、ボタンがある端っこに寄った。
“1F”を押すと後ろから手が伸びてきて、避けるのと同時に顔を上げる。
「え？」
「あ、バレた」
長い指が閉ボタンに優しく当たって、ゆっくりと扉が閉まった。
「りょう、くん」
ぽつりと目の前にいる彼の名を呟くと“ん？”と首を傾げる。
――狭い箱の中で…ふたりきり。
彼の後ろには場所が余ってるのに、閉ボタンを押した手はそのままでもう片方の手は私の後ろの壁についた。
「……ちかい」
「近くしてる。俺の方に飛び込んで来てくれると思ったのに、スマホに夢中だったから」
「会社なのに、」
「誰も見とらんやん」
“ね？A”って意地悪な顔で笑って唇がぶつかった。
「っ、ん」
握りしめていたスマホに軽く指が当たると ブブ、と彼のポケットが震えて。
柔らかな唇が離れてく。
「A……俺にこれ送るためにずーっとスマホ見てたの？」
「え？」
「可愛い(笑)」
彼の手の中に納まったスマホには私からのメッセージが表示されていた。
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作者名：遊馬
| 作成日時：2020年10月15日 0時
