SUGAR-PIE〈橙〉

6-3 ページ13

.




『“…てっちゃん？”』
「もしもーし。届いた？」
『“届いた？…じゃないよ！なにこれ！”』


　電話の奥できゃんきゃんと吠えるAが、愛玩犬の威嚇みたいでただただ可愛い。(笑)


「開けとらんの？ちょい遅れたけど誕プレなのに…」
『“……プレゼント…？”』
「そ。」


　ぱぁっとワントーン明るくなる声色に、にやけるのを抑えこんで“はよ開けて”と勧めた。


　“待ってー”って声がちょっと声が遠くなったから、スピーカーにしてからスマホを近くに置いたんかな？と予想。

　その後にガサガサと段ボールを開ける音が聞こえる。




『“――え、？”』




　電話だから表情は全く見えんけど、絶対に驚いてるであろう声。


　サプライズがばっちり決まったことに内心ガッツポーズを決めてから、何でもない風を装って“開けた？”と声を掛ける。


『“あ、けた、けど…”』


　“こんな高いもの、貰えないよ…”とおどおどするA。

　まあこの反応は、付き合って3年目ともなると予想通りなワケで。


　多分段ボールを開けた先にある最新のゲーム機を見て目を白黒させてるんだろ。


「俺が、Aとゲームしたかったから買ったの」
『“でも…”』
「それで俺とデートね」
『“え？”』
「ダウンロード版のヤツ入っとるから」


　“島開拓するやつ。わかる？”って聞くと、“最近CMでよくやってるどうぶつのヤツ！？”と食いついた。


「それそれ」
『“うー…嬉しいけど…いいの？”』
「発売日からコツコツ1人でやっとったけどさ」
『“うん、？”』


「Aと一緒にした方が楽しいやん」


　小っ恥ずかしいけど、出来るだけ真っ直ぐに。


　思ったまま口にすると、電話越しに嬉しそうな笑い声が聞こえる。


『“ふふ、”』
「A？」
『“てっちゃん、ありがとうっ”』


　満面の笑みが想像出来るような弾んだ声に、俺の頬も緩んじゃって。


　即行動に移した自分を褒め称えたい気分。(笑)


『“てっちゃんの島、楽しみにしとるね？”』


　って何気ない一言にやる気スイッチを押され開拓が進んだのも、俺の個人チャンネルにとってプラスに働く結果になった。









　8月上旬。

　緊急事態宣言が発表され更に会うことが厳しくなった俺らの新しい約束事が、“ゲーム内で毎週末デート”って決まったのは――また別の話。




.

6-4→←6-2

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す