戯れど、野に咲く薔薇の如く (ページ3)

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愈史郎① ページ3

「愈史郎、」

「愈史郎……！」

鬼だというのに私は血鬼術さえまともに扱えない。ましてや、いつも優しい声色で彼の名を呼ぶ珠代様に勝てる部分などない。
彼女は可愛くて、可憐で美しい。そして何より、頭が良い。

たいして、私は？
劣ってばかりで、根性も勇気もない。痛いのが嫌いで戦闘でも役ただず。唯一の長所といえば……何も無い。

「ぁ、愈史郎くん」

鬼になったばかりで、人間の頃の記憶があの忌まわしき無惨の血と混ざり交差する。

『耳に花札のような耳飾りをつけた鬼狩りを殺せ』

血がめぐり、私にそう命令する。

「なんだ？」

「あのね、“あのお方”が耳に花札のような耳飾りをつけた鬼殺隊の子を殺せと、命令してきた。もしかしたらその子の刃はあのお方にも届きうるかもしれない！」

思えば無惨から逃げてきて数年。まだまだ鬼になったばかりではあるけれど、私は早く人間になりたい。人間を食糧と考えたことは一度もない。飢餓感に襲われ、朦朧とした意識の中、いつも頭に思い浮かぶのは憎たらしい鬼舞辻無惨の顔。

そんな鬼の頭であり、私の製造主を思い出していると
次第に、憎悪や嫌悪、悲しみに飲み込まれる。
路頭で感情に埋もれながら、あるはずの無い物をゲェゲェ吐く。無論出てくるものは何も無い。

視界も歪み、このまま墜ちていこうかとさえも思った。情けない。
そんなとき、彼は私に手を差し伸べた。

思えば私、死にたかった。
太陽の光に、人間を食べたいという飢餓感に、逆らってはいけないと……誰に教わるでもなく分かっていたこの感覚から
逃げたくて、棄てたくて、でも自決なんて出来なくて。

救われるだなんて思ってなかった、だって私は本当に、死にたかった。

「勘違いするな、これは珠代様の命令だからな」

そっぽを向いた彼の顔を私はきっと、ずっと忘れない。