青い夏序章 (ページ8)

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「あ、おばあちゃん呼んでくるわな」

そういうと濱ちゃんは部屋から出て行ってしまった

そのドアをずっと見つめていると

「おはよーさん」

寝ていたはずの長身が、
兄が声をかけてきた

先ほどとは違い、兄の顔をみても父を思い出すことはなかった

「急に倒れるからびっくりしたわ」

兄は一歩ずつ私に近づき、布団の隣に胡座をかいた

「ごめん、なさい…」

「さっき濱ちゃんに言われたやろ、困ったら助ける
それがここの当たり前や
迷惑なんて思ってへんから」

少し口調は強いが、たしかに優しく兄はそう言ってくれた

そこで気がつく
名前を述べていなかったことを

「あ、あの、私藤井Aといいます
今日からお世話になります」

ぺこりと頭を下げると、頭上からフハッと笑い声が聞こえ、顔を上げた

「知ってるわw」

兄は笑いながらそう言った
その笑顔に、また父を思い出した
呼吸はしっかりできている
もう大丈夫みたいだ

「藤井流星です
お前の兄や」

兄は優しく微笑むと、私の頭に手を乗せた

「よう頑張ったな
話は聞いとるで
ごめんな、全部背負わせて」

申し訳なさそうな顔で私を見つめる兄
背負わされた、などとは思ったことがない
むしろ、兄から両親を奪ってしまったことをずっと悔やんでいた

「そんなこと…
私、私のせいでっ…」

涙は出ない
でも、まるで涙が出たかのように胸が締め付けられる
苦しい

「何言ってんねん
誰もAのせいだなんて思ってないで」

頭に乗った兄の手が、くしゃっと私の髪を乱す

「あっちで何があったかは聞いとる
でも、全部はしらん
だから、わからへんけど、少なくとも俺やばあちゃんはお前のこと責めたりなんてせえへんで」

優しい声で兄がそう告げる
兄の顔は優しく、"家族"そのものだった

初めて会った
初めて喋った
それでも、血の繋がりは感じるもので

ああ、兄も苦しんだんだ
ずっと会っていなかった両親が自分の知らないところで亡くなり、会ったこともない妹が自分以上に苦しんだことを、この兄は遠い地から分かっていたんだ

何もわからないまま両親が亡くなったと聞いたとき、兄はどう感じたのだろう

それでも私を責めようとしない兄は、今何を思っているのだろう

兄は、どうして私を責めないのだろう

なぜ、こんなにも暖かい瞳をしているのだろう

兄の暖かい瞳とは裏腹に、おそらく冷たい瞳をした私を、兄はどういう気持ちで見つめているのだろう