青い夏序章 (ページ5)

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それからしばらく、ベンチに座ったまま濱ちゃん、は私の背中をさすりながら島の話をたくさん聞かせてくれた

あそこのおじいちゃんは会うと煎餅を必ずくれる、とか、あそこの若い夫婦は今年越してきた、とか、島の診療所、駐在所の場所など
正直見て回ったわけでは無いからあまりピンとはきていないが、この島がいかに楽しく、素敵な場所かをプレゼンしてくれた

ふと気づくとさっきまであった船は無くなっていたし、日もほんの少し傾き始めているようだった

一通り話し満足したのか、濱ちゃんはいきなり立ち上がり私の前にしゃがみ込んだ

「いやあ、ずいぶんと話し込んでしまったな
って、俺が一方的に話してただけやけど」

そう言うと、濱ちゃんはヘヘッと笑いながら首を掻いた

「この島はな、夕方が長いねん
せやからまだ暗くはならへんけど、早いとこ家に行かなな」

濱ちゃんはスっと立ち上がり私に手を差し伸べた

その手を遠慮がちに掴めば、満足したようにニッと笑う

彼は笑顔を何度も向けてくれたが、こうもしっかりと見たのは初めてだったことに気づく

だって、彼は笑うと目がなくなると言うことを今更知ったのだから

「ん？どないした？」

彼の手を掴んだはいいものの、いつまでも立ち上がろうとしない私を心配そうに見つめ首を傾げた

「あ、いえ、濱ちゃんは笑うと目がなくなるんだなーと」

私がそう言えばもう一度ニッと笑顔を浮かべ手を引いて立たせてくれた

「じゃ、東雲のおばあちゃんち行こか
場所わからんやろ？
この島小道が多いねん
案内したるわ！」

そう言うとまるでスキップをするかのような軽い足取りで手を引いてくれた

ふと、あの日手を引いて歩いてくれた父と母を思い出した

あの時の2人の温もりを、いまだに忘れられない

誰かに手を握られたのはずいぶんと久しぶりのことで、鮮明にあの日の温もりを思い出してしまった

少し立ち止まる私、手を引いていた濱ちゃんは私が立ち止まったことで後ろにグンっと引かれてしまった

「おっと、どないしたん？
まだ具合悪いん？」

少し近くなった距離で濱ちゃんが心配そうな顔を向けてくる

「あ、いや、なんでもないんです」

俯きがちにそう言うと濱ちゃんは少し考えた後、やはり先ほどと同じ笑顔でもう一度歩き出した

深くまで聞かない
それは、私が言いたくないから
それを察してずっと笑顔でいてくれたのが濱ちゃんの優しさだと言うことに、今更気づいたのだった