青い夏序章 (ページ36)

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そこまで話すと、兄はまた私を抱き寄せた

兄の胸元に、私の顔が埋まる

「その声を聞いた時にな、最初に思い出したんはお前のことやった」

予想外の兄の言葉に驚き、
顔を兄の方に向ける
正確には、向けようとしたがうまくいかなかったので、目線だけを兄に向けた形だ

兄は私の肩に顔を埋め、少し震えていた
泣いているのだ
肩に当たる彼の吐息は
荒く、リズムは崩れてしまっている

「あんな冷たい声のやつが側におって、ついさっきまで側におった2人を失って深く傷ついているであろうお前が心配で、そのまま家を飛び出しとった
行けるわけ、ないのにな…」

この島は、夕方になれば本州までをつなぐたった1つの手段がなくなる
船は、夕方の少し前までしか出ないのだ

「必死に走って船着き場まで行っても、そこには海が広がってるだけやった
知ってたはずなのに、俺は絶望してその場に立ち止まったんや
その時、後ろから聞こえてきたんわ
しげの足音やった」

「しげ？」

今日の朝出会った青年の名前が出てくると、なぜか心臓が跳ねる感覚があった

「そう、しげ
俺が家から飛び出して走って行くとこが見えたんやって
そんで、心配になって追いかけてきてくれたらしいねん」

兄はずっと私の肩にうずめていた顔を上げ、また私の頭に顎を乗せた

「心配そうに俺の顔を覗き込むしげに、全部話した
両親がいなくなったらしいことも
妹が1人残されてしまったことも
全部話し終わると、泣いてたのはしげやったよ」

彼の顔を思い出す
だけど、思い出すのはあの特徴的な笑顔だけで
涙を流す彼を想像するのは難しいことだった

「優しいやろ？
あいつが泣いてるとこなんて、俺初めて見たわ
小さい頃から転んでも泣かんような、強いやつやったから
俺のために、妹のために、あいつは初めて人に涙を見せたんよ」

人のために涙を流せる人は優しい人だ
しかもそれが、会ったこともない人間に対してなら尚更

彼の笑顔が、頭を埋め尽くす
先ほどまでずっと張り付いていたあの日の情景が、スッと消えた気がした