青い夏序章 (ページ35)

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「信じられへんかったよ
おかんとおとんが死んだなんて
せやけど、そんなこと冗談で言うわけないことくらい分かってた
ばあちゃんの側に駆け寄ると、受話器からはまだ相手の声が聞こえとった
俺が一度もあったことのない、おとんの親父の声やった
それはほんまに冷たい声で
その後に響いた機械音の方が現実味を感じるくらい
突き放したような声やったよ」

兄は私の目を捉えたまま話し続けた

父方の祖父母は、私もほとんどあったことがない

もちろんこっちの家に来ることもなければ
こちらからわざわざ遭いに行くこともなかった

その理由は簡単だ
父が、祖父母のことを嫌っていたから

父の家庭は厳しく、幼い頃から毎日机と向き合い勉強をさせられていた
できなければ拳が、できても罵声が飛んでくるような家庭だったと、いつか父が話してくれた

だからこそ、暖かく優しい家庭を築きたかったそうだ

母は暖かい家庭で育った
物腰の柔らかい母と、普段は寡黙だがやはり優しい父のもとで育った母は
私の父と出会った高校生の時すでに、とても優しく明るい素敵な女性だったそうで

母が学生の時、まだこの島には高校というものがなかった

なので、15歳になり中学を卒業したタイミングで東京の高校へ進学した

父とはそこで出会ったのだ

勉強しかしてこなかった父は、執拗に話しかけてくる母を最初こそ鬱陶しく思っていたものの、だんだんと惹かれ始め
高校2年、今の私と同じ年齢の時に交際を始めた

高校を卒業し、母はそのまま就職
父は逃げるように実家を飛び出し、大学へ進学した

父が大学を卒業してすぐ、籍を入れ
23歳の時に流星を妊娠した

母は里帰り出産を希望し、生まれ育った島で流星を出産すれば、その3年後には私が生を受けた

父は仕事の関係で東京から離れられなかったが、週末になれば必ず母と流星の元へ出向いていたと言う

父は母を愛していたし
母も父を愛していた

近くで見ていた娘の私は、時たまに恥ずかしく思うくらい
2人はとても仲が良かったのだ

そんな両親の元に生まれた流星は、離れて暮らしていても、父と母によく似た
とても優しい人間に育った

私は、どうだろうか
2人の子供だというのが嘘だと感じるくらい、冷たく育ってしまったようだ

父と母に似た兄を、その時初めて羨ましいと感じたのだ