青い夏序章 (ページ34)

今日:23 hit、昨日:12 hit、合計:162,593 hit

033 ページ34

「そんで、一年半前
俺が高校3年のときやな
いつものように淳太の家で遊んで夕方家に帰ると、ばあちゃんが受話器待ったまま廊下で突っ立っとって
いつもとは明らかに違う雰囲気に
俺は、なんとなく察したんや
東京で何かがあったって」

一年半前
それは、あの事故が起きた時だ

私が目を覚ますと、父方の祖母が冷めた表情で私の側に立っていた

おそらくその時、父方の祖父は廊下の公衆電話で伝えたのだろう
父と母が、事故に遭い亡くなったと
その相手は、まぎれもないこの家にいる祖母だ

「ばあちゃんに声をかけると、ゆっくり振り返ってな
その時の表情は忘れられへんよ
ほんまに、この世の終わりみたいな顔して
おとんとおかんが死んでしまったって俺に伝えて
膝から崩れ落ちて泣き出した」

兄がゆっくりと語る当時の様子は
まるで今目の前で起きているかのように瞼の裏に映り出す

あの時、私は何を考えていたっけ
病院の白い天井を見つめ
体の痛みさえも、心の痛みさえも感じず
ただただ寝っ転がっているだけだった

足や腕、肋骨までもが折れ、大きな跡ができるほどひどい傷を体に作り
本当なら痛くて仕方がないはずなのに
私は、何も考えることができなかった

目を瞑る直前に見えた、父と母の目を背けたくなるほど酷い姿と
割れたフロントガラスの奥に見えた
ぶつかってきた白い車

車内には、3人の血が飛び散っていた

周りから聞こえる悲鳴は
まるでスピーカーで流しているかのように大音量で鼓膜を突き刺してきた

それはもう、思い出そうとしなくても勝手に浮かんでくるほど
私の頭に濃く深く刻まれた記憶だった