青い夏序章 (ページ33)

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「その日はそのまま淳太の家に泊まった
次の日の朝になって、ばあちゃんが俺のとこ来ておかんが帰るよって伝えに来てくれたんや
流石にお見送りはしたかったしな、俺は船着き場の近くの防波堤まで行って、遠くからおかんとお前を見とった」

俯いたままだった兄は顔を上げ、同じく顔を上げた私とまた目が合う

「顔は見えなかったけどな、小さい女の子がおかんの手を必死に握ってるのはちゃんと見えてたで」

そうか、会ったことがないと思っていた兄は、確かに遠くからだが
会ったことがあったのだ
だって、私はあの時、防波堤に立つ1人の男の子を見つけていたのだから

「俺に気付いたおかんはお前を先に船に乗せて、俺に大きく手を振ってくれた
俺も、それに負けじと大きく手を振ったんや」

大きく手を振る母と、小さな体で必死に手を振る男の子を、船から見る形で私は想像してみた

おそらくその光景を私は見ていない
でも、なぜだか鮮明に想像することができた

「それからもおかんとおとんは時折島に来てくれてな、せやけど
妹の姿は一度も見んかった」

6歳の時、島から帰った私は
もう兄に会う気にはならなかった
時折母や父が一緒に言くか？と聞いてくれたが、私は首を横に振り続けていた

もし、私があの後も島に行くと言っていれば
兄は父と母に同時に会うことができたと言うのに

あまりにも自分勝手な少女は、そんなことにも気がつかなかったのだ

どちらかが島に行く時、必ずどちらかは東京に残っていた

それは、まだ幼い娘を1人に出来なかったからだ

いや、普段から1人で過ごしている娘を
せっかくの休みの日にも1人にすることを
両親は躊躇ったのだ