青い夏序章 (ページ31)

今日:16 hit、昨日:12 hit、合計:162,586 hit

030 ページ31

兄はそのまま続ける

「最初はな、なんでやねん！って
なんで俺を置いて出て行くねんって思ったんよ
そんなにそいつが大事か、そんなにそいつを離されへんのかって」

そいつとは私のことだ
先に生まれた兄にとって、自分のことよりも優先されるその赤ん坊は
嫉妬するには十分な存在だったのだ

「でも、おかんは週に一回
休みの日になると必ず島に来てくれた
仕事が入ってこれへん時は必ず電話よこして
ものすんごい小さな声で謝んねん
せやから、怒る気にもならへんかった
おとんも、たまの休みには顔を見せに来てくれて、庭でサッカーの相手してくれたり
たまに釣りにも行ったんよ
すぐそこの海やけど
俺はそれが楽しくて仕方なかってん」

初めて聞く両親の姿
母はいつでも笑顔で、元気が取り柄の明るい人だった
私の前ではいつもよく通る綺麗で大きな声で楽しそうに喋っていたのだ

父とは外で遊んだことがない
わたしが女の子ということもあるのだろうが、いつも家でゲームの相手をしてくれていたし、ましてや釣りができるだなんて話
聞いたこともなかった

私が知らない両親を、兄は知っていた
兄に映る両親は、私が知っている両親とはだいぶ違うように思えた

「そんな2人にな、いつからか怒りなんて消えて
忙しい間を縫ってでも、東京に娘を残してでも会いに来てくれる2人が、俺は大好きやった」

兄は優しい笑顔を浮かべる

それは昨日私の頭を撫でてくれた笑顔と同じ
いや、それよりもはるかに優しい笑顔だった

「ある時な、9歳の時やったかな
いつも通りおかんから明日行くからって電話がかかってきて
俺はウキウキしとった
せやけど、次におかんが言った言葉で
俺のウキウキは緊張になってしまった」

おそらくその母の言葉は

「明日は、妹も連れて行く
って？」

流星が言おうとしていたであろう言葉を、私が先に口に出す

流星は一瞬目を見開いたかと思うと
すぐに困り顔になった