青い夏序章 (ページ30)

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わたしは体を起こし、ベットの上に胡座をかく

そのまま流星へ両手を伸ばした

流星はそんなわたしを見てニヤリと右側の口角を上げると
わたしの両手を掴み起き上がる

と、そのままわたしの背中に腕を回し、頭に顎を乗せてきた

突然のことでかなりびっくりしたが
瞬時に香ってきた流星の匂いが、一瞬父の匂いとかぶり
安心感を得てしまった

「それ、おとんのトレーナーやんな」

それ、とはわたしがきているものの事だ
朝起き、寒さに身を縮めながら手に取ったのはたしかに、父のトレーナーだ

「寒い時期にここに来ると、必ずそれ着てたわ」

あちらの寒さとこちらの寒さは格段に違う

冬になると雪が降るこの島へは
春か夏にしか両親も足を向けなかった

家を出るときは春服でも、島に着けばこのお気に入りのトレーナーを羽織っていたのだろう

「出かける時も、いつもこれ着てた」

そう兄に告げると、強くなる腕の力
事故の日は珍しくこのトレーナーを手に取らなかったことを、兄は察したのだろう

「俺な、おとんとおかんに同時にあったことはほとんどないねん」

流星は、ポツリポツリと話し始めた

「俺は、この島で生まれた
おとんは仕事の関係でずっと東京におったけど、お前が1歳になるまで
おかんはここにおったんよ」

知らなかった
それならば私は、この島で生まれたのか

「Aが生まれて一年くらいして
いきなりおかんが東京に行くって言い出してん、もちろん俺も連れて行くつもりやった
せやけど、俺はこの島が大好きやってん
おかんとおとんと離れて暮らすことは嫌やったけど
この島から離れることの方が4歳の俺には嫌やった」

4歳の流星は
母のその言葉にどれほど焦ったのだろう
どうにか引き止めなければ、と
母を必死に説得したに違いない

「ここには友達がおったからな
濱ちゃんも、照史も、まだあったことないやろうけど淳太ってやつもおって
幼馴染も1人おった
そいつらと離れることが、幼い俺には我慢できへんかってん」

兄が私から体を話し、目が合う

「せやけど、子供2人抱えておとんも居らんとこで過ごすんわ、おかんには辛いことやったんやな
駄々をこねる俺を置いて、泣きながらお前抱いて島から出て行ったんや」

母にとっても苦渋の選択だっただろう
幼い息子を1人残し、この島から出ることは
でも、母は追い詰められていたのだ
この島にはほとんどものがない
週に一度くるという船便では、子供2人を育てることは大変だったに違いない