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またこの部屋に1人になった
部屋の傍に置かれたキャリーバックを手に取る
私の荷物はこれだけだ
ベッドや机、本棚は家にあるからと言われていたので東京にあったものは捨ててきた
制服も新しくなるため、もうあれは必要ない
少しばかりの両親の遺品と、ほとんど無いに等しい自分の服だけを持ってこの島にやってきた。
ネットで買うことにはなるが、一応こっちでも服は買える
ならば必要なのは季節ごとの服4着程度とパジャマだけで十分だとほとんど捨ててきた
父の遺品は生前とても気に入っていたトレーナーだ
出かけるとなると必ずこのトレーナーを着ていた
なぜかあの日は来ていなかったけど
母の遺品は結婚指輪
父の結婚指輪は私を庇った際にぐにゃぐにゃに変形してしまった
母のは奇跡的にそのまま残っていたため、母のものだけを持ってきた
本当は父の結婚指輪も持ってきて、2人一緒に連れてきたかったが、私の知らないうちに捨てられてしまっていた
とりあえず服をクローゼットに詰める
思いっきり和風の家なのにクローゼットがあることに少し違和感を感じたが
すぐに、昔母が押入れが嫌で誕生日のプレゼントとして押入れをクローゼットに変えたと言う話をしていたことを思い出した
母らしい
母は物腰は柔らかいが自分の意見をしっかりと持った芯の強い人だった
こうと決めたら絶対そうする
でも、うまくいかなかったらまあいっかとあっけらかんとしている
なんだか不思議な母親だったな、と離れて気づく
でも、私はそんな母が大好きだった
母のように優しく、自分をしっかり持ったかっこいい女性になりたい
自分の意見を突き通すだけでなく、人の意見も受け入れた上で双方にメリットがあるように考えを変えて行ける
そんな母のようになりたいと
もう今の私には無理か、と自嘲しベッドに座る
全て失くしたのだ
あの日に
夢も、希望も、未来も
全て捨ててしまったのだ
今の私には、何も残っていない
机の上に置いた母の指輪を手に取る
それをネックレスのチェーンに通し首に掛けた
ぎゅっと指輪を握れば、母との思い出が蘇る
仕事が忙しい分、休みの日は思いっきり甘やかしてくれた
そんな母の笑顔を思い出し、ベッドに寝転がる
洗ってくれたのだろう
暖かさは無いものの太陽のいい香りがする
近くにあった父のトレーナーを抱きしめた
すでにその服からは父の匂いはしない
抱きしめすぎて、私のものになってしまったのだ
スっと意識が遠のいていった
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作者名：民 | 作成日時：2018年10月7日 2時
