青い夏序章 (ページ12)

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自室のドアを開けるとふわっと懐かしい香りがした
この家のことはほとんど記憶にない

島に降り立った時も特に何も感じなかった

さっきの部屋も

でも、この部屋は違う
ゆっくりと中に足を踏み入れる

ああ、そうか
これは母の匂いだ

ふと部屋の棚に目をやると母が好きだった霞草が花瓶に入れられ置かれていた

ここは母の部屋だったのだ
母がこの島を出るまで、この部屋で過ごし、流星に会ってくると時折島に行った時にはおそらくこの部屋で夜を過ごしたのだろう

気づくと私は床に座り込んでいた

母がいる
きっと、そばに

一年半ぶりに感じた母の温もりは、私の心を刺激する

暖かい
でもどこか冷たくて
苦しくなる

それなのに、涙が出ることはなかった

私は、いつからこんなにも人間味がなくなってしまったのか

『泣きも笑いもしないなんて、まるでロボットね』

頭に響き渡るあの人の声

まぶたに浮かぶのは冷たい沢山の視線

久しぶりだ
最近は思い出さなかったのに

母と父の葬式の日、親戚中から浴びせられた刃のような視線と言葉は、しっかりと私の心に刺さっていた

大丈夫
私はこの島に来ても、何も忘れていない

全部、覚えてる

誰にいうでもなく呟いた

「ごめんなさい」

その言葉は宙に浮かび、弾けて消えて行った

「誰に謝ってるん？」

声が聞こえた方に目をやると、そこには知らない男性が立っていた