青い夏序章 (ページ11)

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階段を登ると左右と奥に部屋があった

「Aの部屋は左側、ここな
俺はお前のお向かいさんやから
奥の部屋は物置
元々はじいちゃんの書斎やったけど、じいちゃんおらんくなってからは立派な物置になったわ」

少し早口の説明を必死に聞き取る

おじいちゃんは、10年前に亡くなった

私が島に来た一週間後のことだった

元々癌を患っており、私が島に来た時も本州の病院に入院していたため、会うことはできなかった

お葬式も、運悪く私がその日熱を出してしまったため、母だけが見送りに行ったのだ

私は、生まれてから一度も祖父に会っていない

いや、会ったのかもしれないが、記憶の中に祖父との思い出は一切なかった

「A？
聞いとった？」

そんなことを考えていると、流星が高い背を屈めて私に目線を合わせてきた

「聞いてたよ」

別に辛いことを考えていたわけではないが、不安にさせまいと本日二度目の偽物の笑顔を貼り付けた

「っ！」

その顔を見て流星は驚いた顔をした
瞬時に少し怒った顔になり

「そんな作り物なら、笑わんでええよ」

強い口調でそう言い放った

「え…」

「ほんまに笑えるようになるまで、そんな無理して笑わんでええから」

そういうと流星は優しく笑い、頭を撫で自室へ入っていった

気づかれた

初めてだった

両親がいなくなったあの日から、私は笑えなくなった。泣くことも、笑うことも出来なくなった。

でも、笑わなきゃいけなかった
可哀想だとかそんなこと言われたくなかった

何も知らないくせに
わかったような口を聞くクラスメイトに、同情されたくなかった

そのために作ったのがこの偽物の笑顔だ

誰にもばれなかった
みんな私が本当に笑ってると思っていた

それが、バレたのだ
初めて会った兄に

そういえば、船着き場で濱ちゃんにこの顔を見せた時、一瞬戸惑っていたっけ

濱ちゃんも、気付いていたのかもしれない

本物の笑顔を普段から見ているみんなは、私の不恰好な笑顔が偽物だということを、目ざとく見つけたのだ

ここでは嘘をつけない
いや、もうついちゃいけないんだ

私の気持ちにも、私の過去にも