プリン味 ページ4
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「買うて来たで……って寝とるやないか」
購買で治と別れてから、教室に戻った。
彼といえば、私の机に見事突っ伏している。
………パシリしといてなに寝とんねん
その机に、プリンを置いて。
寝ている彼の顔をじっと見つめる。
彼には魅力がある。
女子がわんさかするのは
もちろんこの整いすぎている容姿だとも思うが。
それ以上の何かに私は惹き付けてられている。
そんな気がする。……気がするだけ。
彼の前髪にそっと触れる。
何で治と分け目が逆なんやろ、とか
双子だから敢えて変えたんか、とか
そんな呑気なことを考えて。
彼の中に私はどれくらいいるんだろう、なんて
脳裏に浮かんでは、すぐにかき消した。
そのうち起きた彼は私に目を合わせた後
くすぐったいねん、と欠伸をした。
「あんたが寝とるからやろ」
「一番ええ状態で部活したいやんか」
「授業で寝て、赤点取ったら元も子もないとちゃうん」
「北さんみたいなこと言いよる」
北さん、とはバレー部の主将さんのこと。
おっかない先輩や、と
侑の口から聞いたことがある。
でもその表情から嫌な雰囲気はなくて
きっとバレーだけじゃなくて
バレー部のみんなも好きなんだろうな、とか。
ふと、我に返ると
机のプリンが一つ消えていた。
侑の「……うまッ！」なんて声が聞こえる。
そんな彼の手には、空のプリンの容器。
食いしん坊やないか
そして食べ終わった彼の視線が
もう一つのプリンへと注がれたのに気づいた。
「あげへんで」
「バレたか」
「あんたの考えとることくらい分かるわ」
そう言って、私はプリンを一口食べた。
うま、と。
思わず言葉が出た。
さっき彼からも溢れた言葉。
二口目を食べようとしたところで
何やら視線が気になった。
「………なんやねん、人が食べとるのじっと見て」
「いやなんもあらへん、」
顔を上げると、彼がじっとこちらを見ていた。
あんたのなんもあらへんは何かあるやろ
そう思いながらも、三口目を食べた。
「なぁ、」
「さっきっからなんやね、」
呼ばれた声に反応するのに
言葉が詰まってしまったのは、唇に触れた何かのせい。
スプーンではない、なにか。
甘ったるくて、プリンの味がした、なにか。
侑の顔が近くなって気付いた。
キス、というものだった。
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作者名：お箸 | 作成日時：2020年5月18日 19時
