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背後で小泉がそう叫ぶのがきこえたが、俺はこたえない。そんな余裕はなかった。ドアを塞ぐようにして立っているグルッペンを突き飛ばして、俺は走った。行きたい場所なんかない。ただ、その場から逃げるためだけに足を動かしていた。反射的に、なんの考えもなく。
泣いてるところなんか、そもそも誰にもみられたくはないが、あいつにだけは一番みられたくなかった。……グルッペンにだけは。絶対。
情けなさと悔しさが、からだの底から俺のからだを蝕むように這い上がってきて、それから逃れようという気持ちが、莫大なエネルギーとなって俺の両脚を動かしていた。なにも考えられない。なにもきこえない。もうなにもわからない……。
「──おい! A!」
ふと、俺の名を呼ぶ声がきこえて、俺は動揺する。声のしたほうを振り向いたりはしない。その声がグルッペンのものだとすぐに気づいたからだ。あいつに今の俺をみられるわけにはいかない。だってそのために逃げている。グルッペンは運動が苦手で、足だってたいして早くないはずなのに、全力で駆けている俺は、なぜだかそれを振りきることができない。俺が全力を出しきれていないのか? それとも、グルッペンが限界を超えているのだろうか? わからない。どっちでもかまわないが、厄介なことだった。
俺はひとまず、ひと目を避けようと思って──なにしろ、泣きながら全力疾走する男と、それを追いかける美形という取り合わせは、いやがおうでも目立ちまくるので──校舎裏の、誰も通りがからない、高いフェンスと低いコンクリ塀に囲われた場所に出た。息を切らして立ち止まる俺のすぐそばで、ここまで追いかけてきたグルッペンが同じように息を切らしてしゃがみこんでいる。
……はからずも、この場所だ。グルッペンと、はじめてまともに会話をした場所。
「……なんで追ってきたんだ」
ぐす、といまだにしつこく止まらない涙をぬぐい、洟をすすりながら俺がそういうと、グルッペンはあきらかに動揺したようすで、「だって、お前が……」といい募る。
「泣いてるから? 俺が? ほっとけないって?」
吐き捨てるようにそういって、右腕で目もとをぬぐう。……それでようやく、涙は止まった。悲しみより、目の前のグルッペンに対する苛立ちや不満が勝ったせいかもしれなかった。
「迷惑なんだよ。そういう半端な気づかい」
「…………」
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エス(プロフ) - あわさん» すごくうれしいですありがとうございます……!文だけでなく、grpn以外のキャラクター、オリキャラたちまでお褒めいただいてすごくありがたいです。私が書き出したかった青春の空気感が伝わったようで、すごくうれしいです。ありがとうございます! (2019年10月31日 20時) (レス) id: 59009a1e5b (このIDを非表示/違反報告)
エス(プロフ) - 腐女神だぜ☆さん» うれしいご感想ありがとうございます!書きたいものを書きたいように書いた作品でそういっていただけるのはなによりの励みです!読んでくださってありがとうございました! (2019年10月31日 20時) (レス) id: 59009a1e5b (このIDを非表示/違反報告)
エス(プロフ) - スラカさん» ご感想ありがとうございます!!書き手の私の「grpnかわいい〜」という気持ちがあまさず伝わったようでうれしいです笑 読んでいただいてありがとうございます! (2019年10月31日 20時) (レス) id: 59009a1e5b (このIDを非表示/違反報告)
エス(プロフ) - るーかさん» ご感想ありがとうございます!そうですね、そういうことへのきっかけにもなれていたらこれ以上はないです!同性愛のテーマも案外普遍的で、どこにでもあるんだよということが伝わっていたらうれしいです。ありがとうございます! (2019年10月31日 19時) (レス) id: 59009a1e5b (このIDを非表示/違反報告)
エス(プロフ) - 倉の中の石さん» すごくありがたいご感想ありがとうございます!その気持ちが一回ぶん以上の評価として私の胸に届きました……!ありがとうございます!のたうちまわらせることができて狙い通りって感じです……(へへ…)ありがとうございます! (2019年10月31日 19時) (レス) id: 59009a1e5b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:エス | 作成日時:2019年10月21日 23時