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すべて、自分だけの力では、どうしようもないことだ。でも、今の俺たちはもう、自分ひとりの力でそれをくつがえすことができる。俺はもう、ひとりでなんとかできるぞということを、確認するために、夏休みを犠牲にするのだ。これは、それだけの価値があることだった。
つまりこれは、尊厳の問題なのである。
「……修学旅行さ、楽しみじゃね?」
「……そうだな」
「俺今まで、あんまそういうふうに思ったことなかったんだよな。金かかるばっかで、別になくたってよくないかって」
「俺もだ」
「今年が一番楽しみだわ」
俺がそういうと、グルッペンはつと視線をそらして、不自然に窓の外をみた。
「なんだよ」
「……別に」
「お前は楽しみじゃねーの?」
「そんなことないが」
「そうはみえねーけどな」
「……楽しみだよ! 俺も! だから夏休み遊べないんだろ!」
俺がつつくと、怒ったようにそう切り替えしてくるグルッペンがおもしろくて、俺は笑ってしまう。グルッペンは怒った顔のまま俺をにらんだ。そうしてみつめ合いながら、ずーっと、「こんなこという気はありませんでした不本意でたまりません」とでもいいたげな顔でこっちをみているグルッペンがおもしろくて、俺はえんえんニヤニヤしてしまう。グルッペンはそんな俺にあきれて、はあー、と深いため息をつく。
「最近お前、性格悪くなったなあ」
「誰が!? どこが!? 俺ほどやさしくて懐深くて性格のいい人間、そうそういませんけど!?」
「自分でいうなバカ」
グルッペンがそういって、向かいの席から腕を伸ばして俺をどついてくるのを甘んじて受け止める。ただのじゃれ合いだ。こうやってじゃれ合っているときが一番楽しいな、と俺は思う。ずっとこうしていられたらいいのにな。バイトも勉強もせず、ふたりでこうしてアホやって。……無理に決まってるが。
「お互い頑張ろうな。夏休み」
「おう」
夏休みはバイトも繁忙期だ。気合い入れないとな、と俺は思う。気合い入れて金を稼ぐ。自分にもできることがあるのだということを、確かめるために。
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エス(プロフ) - ミオさん» いや私も書きながら「かわいいな……」と思ってました……(真顔)。ありがとうございます!続編もよかったらよろしくお願いいたします! (2019年10月21日 22時) (レス) id: 59009a1e5b (このIDを非表示/違反報告)
エス(プロフ) - 豆鳩さん» ありがとうございます><www高校生らしいお話書けていたらいいな!と思うので天使といっていただけてうれしいです!高校生って天使のようなかわいさ! (2019年10月21日 22時) (レス) id: 59009a1e5b (このIDを非表示/違反報告)
エス(プロフ) - ロアさん» ありがとうございます!wwwしかと受け止めました!! (2019年10月21日 22時) (レス) id: 59009a1e5b (このIDを非表示/違反報告)
エス(プロフ) - 浅葱さん» わーありがとうございます!!grだけでなく主人公までかわいがっていただけてありがたい限りです……!続編に移行しましたので、よかったらそちらもよろしくお願いします! (2019年10月21日 22時) (レス) id: 59009a1e5b (このIDを非表示/違反報告)
ミオ - グル氏可愛いなぁ..!続き待ってます! (2019年10月21日 21時) (レス) id: 4083773df2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:エス | 作成日時:2019年10月20日 2時