榎木がぐいぐい来る2 ページ3
「13番でお待ちのお客様ー」
「はい」
暖かいカップを受け取ると、ふわっといい匂いが鼻をくすぐる。
「うはぁ……最高」
ふわふわのクリームをマドラーで掬って口に運ぶと、ラテの苦味が口に広がる。
ほっと息を吐くと白い煙が漏れた。
ほんと寒い朝のカフェインの美味しさったら。
(※彼女は3徹明けです)
あー、写真撮っちゃおうかな。なんて思ってトートバッグをあさる。
「あれ、スマホ無い…？あ、あった」
確かな硬い手応えをバッグの中に感じ取り出す。
「………ぁ"…」
「ぶっ………あぁ、すいませ…っ…くくく」
私の手に収まっているのは、リモコンだった。
(※彼女は3徹明けです)
見知らぬ人に笑われたという恥ずかしさと、リモコンをスマホと間違えて入れた自分への腹立たしさで顔がかっと熱くなり、急いで荷物を取って逃げるように店を出た。
「あのー！それ僕のです！」
「んっ……！！！」
(※彼女は3徹明けです)
「今日は気をつけて下さいね…ふふ」
「大変失礼しましたっ！！」
まずい、失態を晒してしまった…！！
男の人に笑い物にされた…！！
◇
「ｵﾊﾖｳｺﾞｻﾞｲﾏｽ」
「真上さん顔やばいっすよ」
「いや、特になにも無かったです」
「そっすか」
『カット145、ウォルクの泣きシーンお願いします』
時は進んで収録。
本当は作画や広報に顔を出したいのだが、なんせ忙しく監督としての仕事に追われる。
『もう少し、吐息少なめで。…えーっと、つまってる、えずく、感じで。』
《わかりました！》
ガラスの先に私の声を送る。
「社長、そろそろ切らないと、次の時間迫ってます」
「分かってます…でも、今日中でいけます」
「まぁた、社長が無理したら元も子もないんですよ？
根拠のないタイムスケジュールは危険です」
「あるよ」
彼女は小首を傾げた。
「今回のセリフ、増田さんのところは全部で6カットあるけど、言葉の滑らかさを入れるとゆっくり読んでも合計して2分。
でも、全員入れても30分いかない。
CM用の20秒は別だけどね。
なぜ23分間のアニメ2本の中に個人で入れるセリフを削れるのか。」
単純なことだよ。と付け足す。
待ち時間の短縮、スピーディーな入り。
移動時間を無くすためにわざと狭い場所を選ぶ。
「！だからいつも他社より収録時間が短くできる」
「細かな積み重ねが大事だからね」
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作者名：ピノ | 作成日時：2023年11月10日 21時
