榎木がぐいぐい来る ページ2
「ねえ、かみ？」
「いやぁ…な、んとも思わないですね」
「冷たいっ」
せっかく俺が相談してるのにさー、と榎木。
内容的にはべつに、気にならないもの。
『最近しつこく事務所の後輩に言い寄られてる』
「でも別に、私それ聞かされてもいいアドバイスとか出来ないよ」
「それでもいいから〜。聞いてもらうだけでも気分的に楽になるから」
「そのうち『榎木淳弥は後輩の陰口言ってる』って言われても知らないからね」
「大丈夫」
かみにしか言ってない。秘密。と口に(マスクで隠れてる)人差し指を当てる。
「ん…、とりあえず、一度きっぱり言うことかな」
「俺、めんたるげきよわへなへな声優だから」
「なにそれ」
あんたハートレスモンスターでしょ。と言うと
「どこから聞いたんだか」と横を向いた。
ハートレスモンスターと言われるほどにハートレスなんでしょうあなたは。
「あ、この間めちゃ美味しいコーヒーの豆先輩から貰ったんだけど、俺には多いからあげる」
「え、いいのに」
「いいから、あげるから、」
「…なに」
「え、……かみコーヒー好きかなって」
「嘘」
「ごめんこないだ貰った台本間違えて捨てた」
そんなことだろうと思った。榎木が私に好物を与えるときは何か頼み事があるときだ。
普段は頼んでもないのにBlu-rayやらCDやらを押し付けてくるのに。
ああでも、最近榎木がぐいぐい来る。
…そういえば、ハートレス声優3人くらいいたか。
◇
「え、梅原くんじゃん」
「榎木くん、本当どこでもいるな」
「失礼だな…最近どう？」
「まあまあっすかね。あーでも、これ榎木くんに話すことが分かんないけど、仕事増えそう」
「別に話してもいいでしょ笑…その心は？」
「ああいや、なんか最近できたとこの…マカミ？の新しいやつのオーディション受けたんだけど、受かってて」
「それ俺が落ちたやつだ」
「まじか、言わなくてよかったじゃん」
「や、でも別のキャラ担当なったし」
「やっぱどこでもいるね」
「……」
「すんません。…あ、どこにでもいるというと、最近榎木くんについてまわってるよね、あれ誰？」
「…あー…、ちょっと困ってるけど、別にそれだけだし特にって感じ。」
「…そういうのは、あんまりしつこいと面倒なことになるから一度きっぱり断るべきだと俺は思うけど」
「梅原くんもそう言うかぁ」
「も？」
「いや、こっちの話」
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作者名：ピノ | 作成日時：2023年11月10日 21時
