ディナーは真夜中を超えて ページ39
レストランへ近づくにつれ、繋いでいた手を振って分かりやすく浮足立つAさんと共に温かな室内にほっと息をつく。
細やかに彩られた食事に目を輝かせた彼女は、丁寧な所作で一口を含んだ。
「ふふ、お姫様になった気分」
笑顔が可愛くて、右を向けば広がるガラス越しの夜景なんて二の次になってしまう程艶やかだった。
たおやかな所作がより一層彼女の品を際立たせている。
「…拓海くん?」
いっとうの美術品すらも霞むのでは、と料理そっちのけに見惚れてしまって、首を傾げる仕草が夢ではないと示す。
苦手なのあった?と伺う気遣いに愛しさを感じながら、いえ。と首を横へ振った。
「おいし?」
「とっても」
「よかった!」
話が上手い訳でもなく、かといって完璧な相槌ができているかの自信もない。
もっと良い言い回しがあったのではと度々思うが、無邪気に笑う彼女が楽しんでくれている事が伝わる為居心地がよかった。
テーブルマナーに緊張していた事が嘘みたく丁寧な所作に感心しつつも、パンを一口大にちぎる力が足りず苦戦していたのは可愛かった。
「フランスパンってやっぱり固いのね…」
眉を下げ困惑に染まる声は、数年先でも思い出せそうな愛おしさである。
緩やかで癒しのある夕食を終えハチロクに乗り込んだAさんは、シートベルトをたゆませ満足げに息をついた。
「美味しかったねぇ…」
「はい。ゆっくり出てくるのって結構お腹にたまるんですね」
うっとりと夢見心地な笑顔も愛くるしいが、ぱっと輝く顔もまた一級品であった。
「私も思った!緊張したけど楽しかったぁ〜!」
「今度はブールパンだといいですね」
「あ、また笑ってる!」
帰路へハンドルを切り、思い返して微笑する俺にAさんは染めた頬を膨らませ照れている。
ちゃんとコツ掴んだもん、と訴える言い方がどうにも幼くて、また笑う俺に彼女は悔し気に唸った。
「んもぅ…!でも、本当にお腹いっぱい。この後ケーキ食べれそう?」
「あー…時間を置けば…?」
信号待ち、ギアチェンジを終えたすぐ、重ねる様にAさんの手が触れ彼女を見る。
「じゃあ、お家帰ったら先にプレゼントあげちゃうね」
「……あざっす」
口角を上げ少し歯が覗く幼気な笑みがギャップを煽り、心臓の奥辺りが締まる気がする。
「…青よ、拓海くん」
「…ウス」
見惚れる、という行為がバレてしまうのは、想像以上に羞恥が募るのだと知った。
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み(プロフ) - 本屋と図書館とガソリンスタンドの匂いが好きさん» お楽しみ頂けた様で嬉しいです〜〜!!ありがとうございます😊❤😍✨ (3月12日 7時) (レス) id: afd02ed077 (このIDを非表示/違反報告)
本屋と図書館とガソリンスタンドの匂いが好き(プロフ) - やばい!!!!やばいです😭😭😭拓海いぃぃぃぃぃいいいい好きだァァァァァ (3月11日 4時) (レス) @page41 id: b9b005fe2b (このIDを非表示/違反報告)
み(プロフ) - るさん» こちらこそお褒めの言葉ありがとうございます😊💕💕もっと楽しんで頂けますよう更新頑張ります! (11月24日 16時) (レス) id: afd02ed077 (このIDを非表示/違反報告)
る - 最高すぎます。本当にありがとうございます😭😭😭😭😭更新楽しみにしてます🥰 (11月23日 8時) (レス) id: 74e8a14f0e (このIDを非表示/違反報告)
み(プロフ) - わんさん» いにで大好きなのですが余りに供給が少なくついに手を出してしまいました…!お読み下さりありがとうございます💕これからもお楽しみ頂けるよう頑張ります! (11月22日 16時) (レス) id: afd02ed077 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:み | 作成日時:2023年9月29日 15時