浮足立つ街には相応で応えて ページ35
ひと段落した会話の折、あんまり思いつめた顔で私を見るから何事かと意気込んでしまったが。
「クリスマス……予定とか、ありますか」
羞恥をごまかす様に頬をかいた拓海くんが斜め下辺りへ視線を逸らし呟くから、心の奥がきゅんと音を立て安堵を届けた。
「…拓海くん、お仕事は?」
12月25日。今年のクリスマスは、悲しきかな週の始まり月曜日だ。
仕事の兼ね合いもあり会えるのはイブの前夜から。だが彼はお家のお手伝いもある。
伺う私に、親父に変わってもらうので、と遅れ出る言葉。にんまりしない方が無理な話。
「拓海くんがいるんだもん。他に予定なんていれないよ。」
「Aさん、たまにそういうとこありますよね…」
拓海くんこそ、こういう時に限って遠慮しいになるのは可愛いと感じてしまう。
どういうところ?と聞けば視線を逸らされるから、隣り合った手を握って遊び彼の言葉を待った。
「…行きたいところは?」
分かっているだろうに、羞恥の駆け引きを互いに譲らないからもう一つ。
「拓海くんと一緒なだけで嬉しいから、迷っちゃうな」
「…だからぁ」
ようやく絡んだ視線。
お家でご馳走を持ち寄るパーティーも、ちょっとお洒落なレストランのディナーも。
どこにいるかではなく、誰といるかで幸福の度合いというのは指数変動を起こす。
クリスマスというのは忙しくやってきて騒ぎ立てすぐお正月の後ろへ逃げていくが、どことなく色んな人が浮足立ち街も鮮やかに輝き始めるその刹那が私は結構好きなのだ。
次々浮かぶ想像に頬を緩ませる私に、拓海くんは眉根を寄せ困り果てていた。
頬が赤いから優柔不断のせいではないし、今日の所は私の勝ち。
ほんと、どストレートに…と途切れる声は不服そうで、私はやっぱり、にまにまと満足げに微笑んでいた。
「あっ、行きたいと思ってたレストランはいくつかあるのよ!」
これ以上困らせたくはない。友人が絶賛していたいくつかの想い出を見繕い腕に絡む。
あれもこれもと浮かんでは伝えたくなる私の触れ合いに一瞬膨らませた瞳はすぐ痩せた。
この、眉を下げた愛おしくてしょうがないと言いたげな顔が大好きで、私もおんなじ緩んだ笑顔になってしまうのだ。
彼のいる日々はこうして割とゆったりしていて、絵本を思い出すような穏やかで安寧な日々が多い。
だからこそ余計に。
「たッッ……拓海、くん…!!」
待ち合わせ場所の彼に、驚きが隠せなかったのかもしれない。
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み(プロフ) - 本屋と図書館とガソリンスタンドの匂いが好きさん» お楽しみ頂けた様で嬉しいです〜〜!!ありがとうございます😊❤😍✨ (3月12日 7時) (レス) id: afd02ed077 (このIDを非表示/違反報告)
本屋と図書館とガソリンスタンドの匂いが好き(プロフ) - やばい!!!!やばいです😭😭😭拓海いぃぃぃぃぃいいいい好きだァァァァァ (3月11日 4時) (レス) @page41 id: b9b005fe2b (このIDを非表示/違反報告)
み(プロフ) - るさん» こちらこそお褒めの言葉ありがとうございます😊💕💕もっと楽しんで頂けますよう更新頑張ります! (11月24日 16時) (レス) id: afd02ed077 (このIDを非表示/違反報告)
る - 最高すぎます。本当にありがとうございます😭😭😭😭😭更新楽しみにしてます🥰 (11月23日 8時) (レス) id: 74e8a14f0e (このIDを非表示/違反報告)
み(プロフ) - わんさん» いにで大好きなのですが余りに供給が少なくついに手を出してしまいました…!お読み下さりありがとうございます💕これからもお楽しみ頂けるよう頑張ります! (11月22日 16時) (レス) id: afd02ed077 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:み | 作成日時:2023年9月29日 15時